「美魔女とナイスミドルと、イマドキの孫世代」後編

 「月に行くのかえ?」「へえ、マルさんとの新婚旅行以来かいな」白黒の少女達に連れられ、マルグレートとマルクスは同じ編み籠に2人乗りした。

 「オンジ、オババ、2人乗りでプロテクターなしで、大丈夫なん?」「…本来は違法だよ」孫2人は、心配そうに離陸を見守った。

 「バカにすんない、あたしゃこの道50余年、無事故無傷でやって来てんだよ!」「マルさんとの初デートは、航空課の白ボウどもとツーリングしてたもんなあ…」「余計なこと言ってると、舌噛んじまうよ!」

 果たして、重力に逆らい、浮き上がった籠は、回りの塵や木葉を巻き上げると、垂直に急発進。「ちょっ…オババ、あちしら置いてかないでよ〜!」「…祖母上、速すぎワロタ」

 ほぼ垂直に急加速、急停止、物理法則を無視したダークメイジのスピードに、孫たちは食らいつく。地上から見れば、色付きの風がたまさか空を横切ったようにしか見えなかったであろう。

 猛スピードは、今や空気の質量と抵抗を感じる程に速まる。紫がかった突風に、黒白の旋風が追いすがり、加速度が音を発した瞬間。雲が開き、稲妻めいた魔法陣が空に描かれ、彼女らは地上にはいなかった。
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 三ヶ日月の街、「静かの海アーケード」。シロクトー・サバトの本拠地たる、月影都市の城下町である。夜の種族は皆、心の故郷と呼ぶほど、美しく懐かしく妖しい国である。

 人間の魔法使い、ルナーエルフ、ムーンシャイナードワーフ、ワーウルフ、ワーラビット等々。勿論、魔女やファミリア、"お兄ちゃん"らも多数である。

 「リゼさんや、これは何かえ?」「オババ、それはスムーズィーだよ」「なんか、発音よすぎじゃないか?」「気のせい、気のせい。いいから、騙されたと思って飲んでよ!」齢30にも見える婦人が、娘か妹かに急かされ、野菜と果物を潰した飲料に口をつけた。

 「アーシー、最近のわかもんは、"グリーンジュース"を飲むんじゃのお。ちゃんと食っとるか?ワシの若い頃も、金がないと、『根菜、葉野菜、少し奮発した果物、豆スープ』じゃったわい。肉、麦、新鮮な魚介は…」「…祖父上、あれはハーブや野草のポーションではないわ…」ベンチに腰掛けた紳士は、隣のゴス少女にしみじみ語った。

 「アーちゃん、オンジ、"グリーンジュース"って?」「…リーちゃん、ちゃんと歴史の授業起きてる?それ、次のテスト範囲だよ?」「エッ!?マジィ?!」「…その反応やっぱ、寝てるんだ…」

 「マルくん、こいつはあんな青臭い飲み物じゃあないわい!ウンマイぞ!」「なんじゃと!?ワシにも、ちょーだい!?」「ええぞ、飲め飲め!孫のおごりじゃあ!」夫婦は、同じストローを何てことなく、使い回した。「…まじ、てえてえ」

 「オババの分は、自分で払ってよ!」「ドケチ!」祖母と孫は、向かい合って、拳と脚を繰り出す。しかし、両者は分かっていたかのように、互いの動きを見切る。白く溌剌とした若者のオーラは、深紫の老婆の魔力と押し合っている。

 「ホッホッホッ!マルさん、リズ!服汚すなよ!」「…リーちゃん、祖母上、周りに迷惑かけないでね?」祖父と孫は、遠巻きに観戦した。互いの「激辛チョリソー、デビルドエッグマシマシクレープ」と「レインボーチーズルナティックホットドッグ」をシェアしながら。

 「こんの鬼ババア!」「何だい、ジャリガール!」「孫にタカるな!」「なら魔法ガッコの入学祝い返せや!」二者を覆う半透明のドームは、アーシーの影から伸びている。中では、光弾と徒手空拳が交錯する。まるで、息のあった演武である。

 「はあはあはあ…」「ふー…ふー…」互いの攻撃は、掠りもせず、ただ体力と魔力が底をついた。ドームの中に、マルクスが入り込み、仲裁した。「良い見世もんじゃったわい。お礼に、2人にはそこのムーン・デューをご馳走じゃ」「ありがと…」「すまないねえ…」「仲直り、じゃよ?」

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4人は、月の商店街を巡った。「…次に流行るのは、逆バニー。そんな気がする…」マルグレートは、ウサギ耳のカチューシャを手に取ると、ハッとして呟く。「…オババ」「…祖母上」白と黒は互いを見合う。祖母の勘は外れない。

 「…まさか、マルさん、70越えてバニーガールに!?ワシは全然気にせんぞい。むしろ、見たいわい!」「マルくん、バカなこと言ってんじゃないわ…」言葉と裏腹に、マルグレートは嬉しそうに視線を反らした。

 「しかし、イマドキの娘っこてのは、古めかしいローブとか、色褪せたジーンズとか後生大事に着とるのお?」黒魔女は、道行く女性、人も魔物もチラチラと横目に観ていた。

 「オババ、今のコは古着好きも結構いるんだよ〜!」「…後は、手直し(リメイク)系の流行もある」「ほおほお
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