路地裏での事件から約2週間、ホワイトナイトはユラクチョのバー「不連打」で、ピーナッツをサカナに合成レッドアイを流し込んでいた。「マサキ、そんなかっ込まなくても、酒はなくならないだろ…」「ブハア、スマンな。どうしても、昔の癖ッてやつは抜けなくてな」傍らでは、フードを被った小柄な女がナッツ類をつまんでいた。
「お二人とも、いつ来ても仲がよろしくてうらやましい限り」バーのマスターは、シェイカーを振りながら話しかけた。「主人も今日は早いといいんですが…」「ブレンダ=サン、心配もわかりますが、ニシキ=サンは仕事人ですからね」着流しの男はバーテンダーに返答した。「それに、お二人の方こそ、会うたびお熱いじゃないですか?」
「ホントだよ、ワタシらも負けてられないよね
#9825;」「オイオイ、口に食べかすつけて抱き着くんじゃねえよ」フードの少女、クリスはマサキの胸にほおずりした。「フフフ」その光景に、ブレンダも微笑んだ。
その時、店の扉が開くとともに、チャイムが鳴った。「ハニー!タダイマ!」「オカエリナサイ!」仕立ての良いスーツを着た初老の男が入ってきた。
「コンバンハ、ニシキ=サン」「コンバンハ!」マサキとクリスは男にアイサツした。「オオッ、二人は来ていたか!ちょうどよかった、話がしたくてね」
マサキ達は、ニシキの言葉を聞いてその背にいる人物に気づいた。「ハジメマシテ、マクノ・ソノフミと申します。ニシキ=サンの紹介で参りました」額の秀でた男は二人とマスターにオジギした。角度は100度であった。「ドーモ」「ドーモ」着流しの男とフードの女は110度でオジギを返した。バーテンダーのブレンダは、軽く会釈するとオシボリを渡した。
「さて、アイサツもそこそこにボクはペールエールにしようかな」ニシキはブレンダにウィンクしながら注文した。マスターは頬を赤らめながら酒を取り出した。「マクノ=サンは、何にしますかネ?」「私はそうですね、同じものを…」「オメガタカイ!最近の若い者は、やれ『トリアエズビール』とかチャントを唱えるようですが、こういうところではやはり昔ながらのエール!ズバリ、上部発酵で…」「…オッホンッ」ブレンダは咳払いした。
「アアッ、これはシツレイをば」「イエイエ、やはりナカリガワの部長ともなれば、一通りの目利きはできて当然ですね」二人のビジネスマンは互いに社交辞令を交わした。マサキとクリスは二人の話を遠巻きに眺めていた。マクノは彼らの視線に気づき、ハッと表情を変えた。
「ソウダ!ニシキ=サンに連れてきていただいたのは、もう一つ理由がございまして…」額の広い男は名刺を懐から取り出した。セイショナゴン・コスメティック経理部会計課課長マクノ・ソノフミ「これはどうもご丁寧に…セイショナゴン?」「…ヤッパリか」
マサキとクリスにはこの社名に見覚えがあった…二人は、互いの顔を見て、マクノに振り返った。(イヤな予感がする…)「オオッ、そうだった!こちらのマクノ=サンは何やら込み入った事情があるみたいでな…ホワイトナイト=サン…」ニシキは先ほどまでとは表情を変えながら話しかけた。
「その名で呼ぶということは…」「そうです。あなた方の事情、そしてうちの社内、それも私のいる会計課での怪事件…その解決ができるかもと、ニシキ=サンの口添えで…」ビジネスマンはそう言うと、汗ばんだ顔をオシボリで拭いた。
「マモノですか…」「ハイ…」マサキ、ホワイトナイトはマクノの顔を見た。年齢を考えてもくたびれて、むしろ憔悴しているといった状態であった。「マクノ=サン、ワタシたちが仕事を受ける前に詳細を確認したい」小柄な女、デジタルスクイレルは真剣な表情で言った。「では、事の経緯を私のわかる範囲でお答えいたしましょう…」
◆◆◆◆◆
5日前。ブンキョディストリクト、セイショナゴン・コスメティック本社8階、会計課。
「…つまり、グルニヤ=サン、君は職を辞すると…」「…」マクノと部下のグルニヤ・サブロは課長デスクを挟んで面接していた。「…もちろん、君をそこまで強く引き止めない、3か月前に行ってくれとも言わない…」「…」「ただ、理由だけは私に教えてくれないか…」
会計課課長は部下が口を開くまで待った。(…マケグミが一人消えたくらいで、そこまで大ごとでもない。代わりはいくらでもいる…問題はこの課に勤めるもので、どこまで知っているかだ…)この光景を主神が見ていたのであれば、ヤンナルネと言ったことであろう。マクノの懸念は主に会計課で知りえた、このメガコーポの社外秘や記録の隠蔽についてだけであった。部下を思っての言葉ではない。
「…天啓を得たのです」「ハア?」部下の言葉は、課長に思わず間抜けな声を出させるものであった。(…この男は何を言って)「イエ、表現が不適切でした…カ
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