突撃隣からメイドさん

 ピンポーン…

 とある土曜の午後の事、不意に玄関のチャイムが鳴った。

「こんにちはー。○○さん、居ますかー!」
「はいどちら様で…」
「こんにちわ。では、ちょっとお邪魔しますよー。」
「え、ちょっと!」

 玄関のドアを開けたらメイドさんが居た。しかも獣っぽい耳と尻尾を持った…魔物の。

「わー…これは予想以上の……いえ、やりがいがありますね。」
「なんなんですかあなたは…。」

 彼女は入るなりリビングの様子を見てそんな事を言う。
 確かに少し…いや、かなり散らかっているのは認めるが突然人の家に入ってきてそれは無いのではなかろうか。
 大体、不法侵入である。

「おや、テレビのニュース等ご覧になってはおりませんか?」
「はい?」
「先日、県議会で『男性擁護条例』が可決され即日施行されまして。未婚の男性が危険に晒されている場合、我々魔物は各自の判断によりその者を保護する事が可能となりました。なお、その際は超法規的な手段も許容されることとなっております。」
「うわ淫魔立法……」

 ……淫魔立法とは……
 本県のように魔物の地方参政権を認めている地域で作られる、妙に魔物側に都合のよい条例などの通称である。なお、なぜこんなものが通るのかと言えばその理由はまぁお察しの通りであろう。


「いや、でも自分特に危険な目には…」
「貴方様の生活ごみをしばらく調査しておりましたところ、お食事は出来合いのおかずやお弁当ばかり。しかも揚げ物の占める割合が異様に多く、このままでは将来生活習慣病により死亡する危険があると判断いたしました。」
「それは流石に無理があるんじゃ…」
「いえ、合法です。」
「………。」
「さらに、この住環境ではハウスダストによるアレルギーや喘息、肺炎等も危惧されます。よって、今後はわたくし、キキーモラのカティアがここに住み込みで保護活動をさせていただきます。」
「住み込みて…」
「はい、住み込みで。」

 改めてメイドさんを見る。
 犬か狼のような耳と尻尾を垂らし、腕の甲は猛禽類を思わせる羽毛で覆われている。体格はやや大柄で身長は男性である自分よりも高いくらい。そして…ざっくりと開かれたメイド服の胸元から覗く、豊満な膨らみが眩しい。
 魔物が住み込みでとなれば当然、そういうことも意識してしまう。今後精を求められたりだとかも…

「では、今後は貴方様の事はご主人様と…ご主人様?」
「…っ!?」

 顔を覗き込まれ思わず一歩引いてしまう。彼女が少しかがむような恰好となったことで余計に谷間が強調され、心臓が高鳴った。慌てて視線を逸らすが、少し遅かった。メイドの表情が淫らな笑みを浮かべる。
 
「!?な、何を…」

 いつの間にか手を取られ、その豊かな胸の膨らみへと導かれていた。
 指が、掌が、極上の肌触りを持つ布地越しに柔肉に沈み込んでゆく。

「どうやらここに興味がおありのようでしたので。わたくしたちの種族は特に、主人が望む事には敏感なのです。これは、良い関係が築けそうですね♪」

 胸に沈めた手に手を合わせその感触を刻み付けながら、彼女はぺろりと舌なめずりをして見せた。


「ではお部屋のお掃除を始めますので、埃を吸い込まないようこれを付けてください。」

 彼女はそう言うとおもむろに自身の胸元に手を突っ込む。そして谷間の底から取り出したそれを広げ、顔に押し付けてきた。
 口から鼻までを覆う白い布が覆い、耳に紐が掛けられる。……布製のマスクであった。
 布越しに息を吸いこめばほのかにミルク臭の混じる甘い香りが肺を満たした。嗅いでいると妙に力が抜け、頭がぼーっとしてくる。
 なんだか危険を感じ反射的に外そうとするが、顔に張り付いてように上手く外せない。
 
「三日三晩胸に挟んで淫気を染み込ませたものです。リラックスできますよ。」

 そうこうしている間に腕の力も抜け、ふらふらとベッドの縁に座り込んでしまった。こうなればあとは目の前で繰り広げられるお片付けを呆然と見ているしかない。

 衣服やモノが纏められ、整理され開いたスペースから清掃が始まる。自分でやろうとすればどこから手を付けていいか分からないものを、まるで勝手知ったるかのようにてきぱきと進めてゆく。

 結果、ものの一時間程度で全て片付いてしまった。

「………。」

 完璧であった。
 特にすさまじいのは必要最小限にしかモノを捨てていないというところだ。
 ゴミ袋に詰められたのは掃き掃除で出た埃や紙くず等がほとんどであり、部屋に散乱していた物品はそれぞれ整頓され、収まるべき収納スペースに収められていた。
 こんなに収納スペースがあったのかと、そしてこの部屋はこんなに広かったのかと今さらながら驚く。

「お待たせいたしました。これで多少は住みよくなりましたね。」

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