「ねーえぇ、結婚しようよぉ〜!」
「えぇ……いや、あの…」
普通、美人に身体を密着させられながら甘い声でそんなこと言われて、嬉しくならない男性は居ないだろう。
たとえその下半身が魚のそれであったとしてもだ。
……。
…だがちょっと待ってほしい。
自分と彼女は、出会ってからまだ5分も経っていないのである。
仕事で少し長めの休暇が貰えたため、以前から興味のあった観光地、コートアルフへやってきた。
そしてここはその第一の島『アルマール』。島中が水路により接続された、水の街である。故に移動にあたっては水棲の魔物が操るゴンドラを利用するのが通例だ。
と、そう聞かされていたため、入り口付近のゴンドラ+船頭斡旋所で手続きを済ませ紹介されたのがこの桃色人魚もといメロウであった。
名をリアーネと言うそうだ。
そして出発から3分程で求婚された。
そのまま今に至る。
「ね〜え〜」
「急にそんな事言われても…この短時間で僕のどこに惚れたのさ?」
「ん〜?じゃあ一目惚れってことで。」
「じゃあって!?」
そんなこんなで舟に揺られること約15分…最初の目的地に着いた。
「あ、水上レストラン。ここでお昼食べる?それとも私をたべる?」
「お昼食べるよ!こんなところで何言ってるの…」
「え?普通でしょ。ほら、個室席もあるよ?」
「……。」
水路にせり出すようにして設けられたイートスペース。多くはテーブルと椅子、日除けのパラソルを1セットとした簡易なものだったが、小さな小屋状のものもいくつかある。
それらに目を向けるとちょうど、水先案内人の一人らしきマーメイドが下半身を人型に変え、興奮した様子で観光客の男を連れ込むのが見えた。そして扉が閉まると程なくして、その男性のものと思われる悲鳴が小さく聞こえ始める。
「あーあ、あのお客さん、料理を食べる前に自分が食べられちゃったね。防音魔法が掛かってる個室でここまで中の声が聞こえてくるなんて、かなり激しい子に捕まっちゃったみたい。どう?まだ空いてる個室はあるし、結婚する前に身体の相性を確かめておくのもいいと思うんだけど…。ちゃんと気持ちよくしてあげるからぁ
#9829;」
そう言ってリアーネはここぞとばかりに身体を擦り寄せてくる。押し付けられる柔らかな膨らみと、至近距離で感じる艶やかな吐息が、体温を上昇させた。
…というか、ちゃっかり結婚する体で話が進んでいる。油断も隙も無かった。
「…普通のテーブルでお願いします。」
「むう。」
リアーネが小さく唸る。
しかし彼女は気分を切り替える様に手慣れた手つきで係留用の桟橋に手早くゴンドラを繋ぎ止めると、下半身を人間のそれに変身させ、桟橋に飛び移った。そしてこちらへ手を伸ばしてくる。
「はい。掴まって♪」
差し出された手に掴まり、桟橋へと上る。そこで彼女の表情に一瞬笑みが走った気がしたところで…
「あっ、足下気をつけて♪」
「えっ…」
『何かに』躓いた。
重心が前に崩れ、浮遊感に襲われる。桟橋とはいえ倒れ込めば痛い。予想される衝撃に目を閉じる。
しかし顔面を襲ったのは、予想外に柔らかな感触だった。
「あん♪」
「…?」
恐る恐る目を開けると飛び込んできたのは白の布地。そして…。
「んふふ。だいじょうぶ〜?」
視線を上げるとにやにやとほほ笑む彼女の顔があった。
転んだところを彼女の胸に抱きとめられたのだ。
「ご、ごめん!…んむっ!?」
慌てて身体を起こそうとする。が、後頭部を押さえる彼女の腕に阻まれた。これまであまり直視しないよう意識して視界から外していた暴力的な大きさの柔肉が、顔面から側頭部までを包み、その感触に埋もれさせてくる。
「大丈夫?ケガしてない?慌てずゆっくりでいいからね〜♪」
ケガなどしているわけがない。にもかかわらず腕が外れる様子もない。
結局、たっぷり15秒ほどそうされていただろうか。ようやく腕が緩められた。慌てて顔を引き離し大きく息を吸いこみ、呼吸と精神を整える。
「もういいの?もっとおっぱいの感触堪能してていいんだよ?あとついでにもっと私の身体を見てね?」
「いや!もう大丈夫ですから!ありがとうッ!!」
当然のように目的がすり替わっている。彼女の身体から意識して視線を外していたことに対する意趣返しだったらしい。
そしてその肢体を強引に意識させられた訳だ。今だ顔に張り付いているように感じる先ほどの感触を思い出し、羞恥で耳が熱くなるのを感じた。
そうは言われてもやはり直視は出来ず、思わずまた視線を逸らしてしまう。比較的肌の露出が少ないにもかかわらず、身体の凹凸をこれでもかと強調する彼女ら水先案内人の制服は、目に
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