「ようこそ。よくここまで辿り着いてくれたね、歓迎するよ。」
何処までも続くかと思われた草原の終点、まるで地面から生えてきたかのように唐突に現れた純白のテーブルと椅子。そこに腰掛ける燕尾服の女性は艶然と言い放った。
…終点。そう終点。
さて、何故に自分はここを終点だと思ったのか。彼女の居るその先にも、そう地平線の先まで草原は続いているというのに…。
「ああ、君の感じた『それ』は本物だ。確かにここは一つ目の終点だよ。お疲れ様。そしておめでとう。ここで私に勝利することで君はこの先へと進むことが出来る。…ああ、迂回してやり過ごそうなどとは思わないでおくれよ?ここからどこへ向かおうとも、君にこの先を目指す意思がある限り君は必ずここへと辿り着いてしまうだろう。これまでのようにはいかない。先へ進もうとすれば避けられない戦いというものがある。…君にはこの意味が、分かるだろう?」
先へ進むために避けられない戦い。越えなければならない敵…。彼女の言う通り、こう言われればそれに該当する存在には心当たりがある。即ち彼女は…
「改めて言おう、ようこそ。歓迎するよ、挑戦者クン♪」
…ステージボスだ。
左手を水平に掲げる。
その瞬間、メイン装備に設定している魔本が掌に具現された。すぐさま表紙を開きページをめくる…。ここに引き込まれてからというもの、敵と出会う度に幾度となく繰り返した流れだ。
もう半ばルーチン化してしまっていた。
と…
「あー、ちょっと待ってくれたまえ。ここでの戦いはそういうのではないんだ、そういうのでは。――というか本当にソロでここまで来たんだね…。いや、感心するよ。よりにもよって最初の店で君は『それ』を選んだ訳だ。」
『それ』とは今左手に構えている魔本の事だろう。確かに、ナビゲーターらしき猫の少女に最初に案内された店で、自分はこれを購入した。何となくあの少女の言うことに胡散臭さを感じたのと、せっかく異世界に来たのなら魔法の一つでも覚えて帰りたいと思ったからである。それ以降はこの本で魔法を覚えながら騙しだましやってここまで来た。
「君の直感は正しい。確かに『それ』は正解の一つ…いや、ある意味あの場で最も賢い選択と言える。ここだから言うが、実際、あの店の商品の多くは罠なんだよ。ここでは強力な仲間は諸刃の剣だ。最初はいいかもしれないが、いずれ対価を支払いきれなくなりこの世界に囚われるパターンがほとんどさ。…もっとも、身の丈を超えた欲をかいたり本人の運次第では即ゲームオーバーもありうるがね。その点、『それ』はリスクゼロだ。その意味で君は賢い選択をしたと言える。ただ…」
そこまで言って彼女は言葉を切った。
一瞬、彼女の眼に淫猥な色が浮かぶ。
「ここに至るまで一人で来てしまったことについては果たして賢い選択と言えるのかどうか…私には判りかねるけども。」
そして彼女はテーブルを挟んだ向かい、空の椅子を指した。
「さて、準備が出来たら席に座ってくれたまえ。それを以て挑戦の意志ありとみなし、ルールの説明へ進むとしよう。」
特殊ルールでの戦闘。しかも詳細は始まってからでないと分からないという。このパターンは経験が無いが、いずれにしてもここを突破しなければ先へ進めないというのだけは本当らしい。ここに来るまでに見たマップを思い出す。確かにこの地点がボトルネックとなっていた。
いずれにしろいつかは座らざるを得ない訳だ。
恐る恐る椅子を引き、腰掛ける。
「ふふ、覚悟は決まったようだね。…ああ、申し遅れた。私はマッドハッター。帽子屋と呼ばれることもあるよ。種族名ですまないが、ここでは我慢してくれたまえよ。では、ルールの説明に移ろうか。」
対面に座る燕尾服の女性は笑みを深くし、その長くしなやかな指でテーブルをトンと叩いた。するとお互いの目の前に白磁のティーカップとポットが現れる。併せて空中に時計の文字盤のようなオブジェクトが設置された。
「儀式魔法『決闘茶会』。ターン制の決闘儀式魔法だ。お互いが席に座った段階で発動し、途中離脱は不可能。ルールは自分のターンに1回、お茶を一杯飲む事。それだけだ。どちらかが気絶した時点で終了、意識を保っていた方の勝利となる。」
「…?」
彼女が流れる様にルールを述べ始める。
…が、まるで意味が分からない。
「まぁ、『決闘』などと大げさな名前が付いているが、なに、内容は単なる茶の飲み合いのゲームだよ。平和だろう?…さて、ここまでで何か質問が無ければこのまま勝負を始めるが、よろしいかな?」
ようはお茶でやる飲み比べ。
正直これのどこが『決闘』になるのかわからないが、しかしここはフシギノクニ。何か仕掛けがあるのだろう。
だが、もう席に座ってしまった以上今さ
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