「……で、できた!」
誰も居ない草原…唐突にそびえる豪奢な扉を前に、少女は感嘆のため息をついた。
この扉を構成する術式も理論も彼女は知らない。知っているのはただそれが存在する事、そしてそれを作れる者が居ることだけ。だが彼女にとってはその事実のみで十分だった。
なぜなら、他の誰かに出来るのならば自分にだって出来ない道理は無いのだからと。
彼女は傲慢にも本気でそう信じたのだ。
故に、出来た。
やはり、時間は全てを解決してくれるのだ。自らの選んだ道は間違っていなかったのだと。
ただそれを再確認し、少女は扉に手を掛ける。
そして少女は期待に胸を躍らせ、新たなる世界への一歩を踏み出し…
「あ…」
踏踏み出したその足は空を踏み抜いていた。
「うん…まぁ、そういうこともあるよね。」
やはり本物を完璧に模倣という訳にはいかない。出来上がったのは、よく似た機能を持つ『別のナニカ』だったようだ。
まぁ…、
よくあることである。
「あーれー…」
少女はただ空を落ちてゆく…↓
………↓
……↓
…。
「はぁ…。」
かつて、狐狩りという娯楽があったらしい。
逃げ道を塞いだ狩場で狐と猟犬を放ち、猟犬が狐を追い詰め殺す様を楽しむのだそうだ。
初めて知ったときはなんと趣味の悪い話だと思った。しかしよくよく考えてみれば、この世界も似たようなものに思えてくる。
閉ざされた空間に強いものと弱いものを同時に放り込み、強いものが弱いものを虐げ食い散らす様をきっと誰かが観察しているのだ。
悪趣味なことだ。
そうやって同じ箱の中で争わせ、敗者は落伍者として、そして勝った者同士をまた新しい箱で戦わせ……そうやって最後に残った上澄み――真の強者のみを掬い取る。それが現代社会のシステムだとするならば、形としてはむしろ蠱毒に近いか…。
「……なんてね。」
……、
…逃避である。
思考的逃避。
現実として今の自分は狐であり、工程の途中で食い殺される蟲なのだ。かつては犬だったこともあったのかも知れないが、今となっては何の意味も無い。
少年は帰路から少し外れた公園のベンチに座り込み、そんな無為な思索に耽っていた。
その目に力は無く、うつむく視線は自らの落とす影のみを射抜く。
いつもどおり屈辱に満ちた今日を終え、自宅へと帰る途中なんとなくここに立ち寄った。特に目的は無い。単なる束の間の逃避。
明日にはまた同じ一日が始まるのだ。
それは逃れられない現実。濡れた靴が冷たかった。
季節は秋口、一年次のこの時期ともなればクラス内での序列はおおかた固まりきっている。男女共にいくつかのグループが出来上がり、グループ内で、そしてそのグループ自体に、それぞれ格付けがなされる。
彼もまた、自然とそのシステムに組み込まれていった。だがその行き先が良くなかった。
力が至らなかった。運が無かった…。様々な不運が重なり彼の立場はみるみる悪化していったのである。
それでも始めのうちは上手くやれている気でいたのだ。だが、気づけはからかいの対象となり、それは悪戯、嘲笑へと…反面、押し込まれるがまま自分は萎縮し、卑屈に…
そして、今に至る。
朝、下駄箱に入っていたはずの靴は下校時には校庭横の池に浮かんでいた。
このパターンも初めてではない。犯人のだいたいの目星は付く…が、証拠は無い。問い詰めても無駄だろうし、むしろ怒りを買って状況はより酷くなるだろう。これも彼らにとっては単なる悪戯のつもりなのだ。そんな唯の悪戯に本気になって怒ろうものなら、それは大いに不興を買うに違いない。
結果、行為はより陰湿に、かつ過激に進化する…。そんなことはもう経験則として理解していた。
いったいどこで何を間違えたのだろうか。考えれば考えるほど、全てが失敗に思えてくる。そして、恐らくそうなのだろう。
こうはなるまいと積極的に行動したつもりだった。しかし周囲は自分という人間の底など、いとも簡単に見透かしてくるのだ。つまり結局、その行動は不正解だったということになる。
やはり身の丈に合わない事はするものじゃない。
ふと、遠くに幼い子供が二人駆けてゆくのが見えた。
思わず羨望を感じる。悩みなど無い幼き日々…もしもあの時代まで遡ることが出来たなら、今度は間違えずにやり直せるだろうか。
「……。」
無理だ、と思った。
結局、生まれ持った能力・性質の差というものはどこまでも付きまとう。それが人格や性格に起因するものであれば尚更…。
そして視線は再び地面へと帰る。
この生活は今後3年間に渡って続くのだろう。そしてその先も同じことの繰り返し。いや、同じではないのだ。こんな今でさえもかろうじて
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