そして産み落とされたもの(上)

……そして数ヶ月後、


「どうしてこうなったんだろうな…」
「さぁ…どうしてこうなったんでしょうね…」

 エリスの『上』で呟く。
 しばらく前に魔界を発ち、ここはもう人間界。夜明けの空は透き通る様に青く輝いている。もう少しで親魔領の前線を越え、その先の目的地まではあと数刻といったところだろうか…。


「見た瞬間に戦意を喪失するような威容…うん、確かにその通りだな…」
「本当にこれで良かったんですかね…?」
「私に聞くな、こうなってしまったものは仕方がない。これでやるしかないのだ。…一応スペックだけ見れば今の君は魔界の王女に匹敵する怪物、たとえ向こうに勇者が何人居ようが止められまい。故に敗北は無い……筈…。」
「何で自信無さげなんですか…」
「いや、なんだか嫌な予感がしてな…」
「奇遇ですね、実は私もです」

 眼下に広がる巨大な影…、これを今自分達が作り出しているのだ。そしてその影の主、滑るように宙を進む巨体とは…


・・・・・。

 あの夜、迂闊にもメルウィーナの目に晒してしまった未完の設計書。表題は『ギガントゴレム』。
 その発想自体は相当前に遡る。ヴァリアブルゴーレムの特性を生かしひたすら魔力と装備の搭載量を追及することでリリム並の戦闘力を再現しようとした結果、城塞並の巨体が必要だということが分かった。
 がしかし、要求される資材と魔力量が規格外であるにもかかわらず、得られる特徴はただデカいだけ。膨大な火力と多少の機動性、再生能力を得られるとはいえ、敵の遠距離火力による飽和攻撃であっという間に沈黙しかねない。
 …ぶっちゃけた話ゴーレムである必要がまるで無く、それならば普通に城か固定砲台を建てた方が早いし安いという結論に至ったのだ。だが、超大型ゴーレムを製造するための基礎理論と術式は今後何かに転用できそうな気がしたので関連資料は残しておいたのである。
 そしてそれがあのリリムの目に触れ、しかも気に入られてしまったのだ。

 そこから先は早かった。

 リリムの意向が働いた事で設計書は我々の手を離れて飛び回り、トントン拍子で話は進み、更には噂を聞き付けた多くの工房が計画への参加を申し出て来たのである。更にはサバトやグレムリンの団体、堕神教団の勢力まで加わり、あっという間にネオゴーレム計画はこの研究所の総力をあげた一大プロジェクトへと変貌してしまった。
 こうなってしまっては最早止める術など無い。勢いに流されるまま、エリスをベースに設計を進めさせられてしまったのだ。


 そして出来上がったのが、今時分が立っているコレ。正式名称は可変式浮遊機動要塞『ギガントゴレム・フォートレス』。全長数十メートルに及ぶ、空飛ぶ怪物である。

 そう、まず見た目からして怪物なのだ。

 現在の彼女は最早人型をとってすらいない。大質量による機動性の低下を避けるため飛行形態への変形機能が搭載され、今はそれに変形している。…ちなみにとあるグレムリンの発案である。
 そして、半流体構造による形状記憶式では変形に時間がかかりすぎると言われ、関節部のみを半流体とし、その他部分は硬化させる方式を取った。そのため姿形の自由が利かず、今の彼女は縦に引き伸ばしたエイか潰れたイカのような形容し難い不気味な姿をしている。
 しかも頭上には巨大な円環状の浮遊用魔術式が2つ、さらにその周囲には6対の加速用光翼……飛行形態と聞いて最初は変身したドラゴンのような姿をイメージしたものだが、コレをドラゴンなどと言おうものなら竜族の皆様から抗議が殺到すること請け合いである。

……。


 だが見た目と性能は別である。

 理論上はやはりヴァリアブルゴーレムの応用系であるため、質量は武装の搭載可能数と魔力積載量上限に直結する。機動性の問題さえ解決すればその大質量が本来の価値を発揮するのだ。計画に参加している各工房から提供された武装を片っ端から積み込み、魔術的な防御機構も可能な限り搭載した。
 単機で城を攻め落とす事を想定した自己完結型の超兵器…。これが負けるようなら反魔領の国々はここまで魔界に苦戦していないだろう。

 エリスの背からまだ見えぬ目的地を睨み、そう自分に言い聞かせた。
 
 何はともあれ攻撃目標である『あの』街まであと少し。朝日を背に、土の異形は進む…。








 明け方の東の空、日の出と共にそれは現れた。
 朝日の中浮かぶ巨大な影…その余りにも現実離れした光景に城壁の上の見張りの衛兵は腰を抜かす。が、伊達に反魔領の前線都市ではない。直ぐさま気を取り直すと敵襲を知らせる鐘を鳴らした。



「久々に帰ってきたが、流石に対応は早いな…。」

 攻撃目標として選ばれたのはなんと、メルウィーナの手引きによりエリスと共に脱出したあの街であった。確かに両勢力の
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