「ふぅ、なんとか宿がとれて良かった…カプセルだけど。」
出張先で用事が長引き、終電を逃した。
やむを得ず宿を探したところ、運よく駅のすぐ近くに空室のあるカプセルホテルを見つけたのだ。幸い明日は休みである。今日はここで寝て明日の朝帰る事にした。
独身の1人暮らしなので帰りを待つ家族も居ない。
共同の浴室で身体を清め、レンタルの薄手のガウンを羽織り個室に横になる。
硬いマットにこれまた硬い枕、頭上にははめ込み型のテレビが備え付けられていた。
「そういえばあの店員…見放題とか言ってたな。」
・・・・・
『個室のAVは見放題なんで!結構数入ってるんで!!ぜひ見てみてください!あ、個室は完全防音なんで大音量で大丈夫ッスよ!』
受付の若い店員にやけに勧められた。
「せっかくだから…」
明日は別にチェックアウトギリギリまで寝ていても問題ない。いい夢が見られるかもしれないし、ちょっと夜更かしでもしようかとテレビのスイッチを入れた。
―ヴンッ…―
画面に光が灯り綺麗な女性の姿が映し出される。
チャンネルを送ると別の女性に切り替わった。どれもレベルが高い。むしろ異様なほどに…
「うーん、とりあえずこの子で…」
やがてその中でもなんとなく心の琴線に触れた一人を選び再生を押した。
その瞬間…
「やっほー♪ご氏名ありがとぉー!」
「…は?」
突然、仰向けに横たわった身体の前面に柔らかな重みがのしかかる。画面の中に映っていたはずの女性が、5割増しに美化された姿で自らの前に現れていた。
「………。」
「ありゃ…?固まってる…おーい?」
そりゃ固まる。画面の中の人物が突然現実に現れたのだから。一昔前のホラー映画でもあるまいし…。さらにこちらの胸板に押し付けられ潰れる豊かな肉双球の感触が思考を邪魔するのだ。
だがやがてとある1つの可能性に思い至り戦慄する。
「ま、まさか魔物…」
「ほ?あたしたちをご存知?せいかーい♪サキュバスのルシカでぇす!よろしくネ♪」
魔物…今ネット界隈でまことしやかに囁かれている噂である。じわじわとこの世界に侵入してきている彼女らは人間社会のいたるところに潜み、目をつけた人間を魔界へと連れ去ってしまうと言うのだ。
コレだけ聞けばただ子供を怖がらせるためだけの方便、作り話、オカルトである。都市伝説にもならないだろう。
しかし、どうやらこの魔物とやらが存在すること自体はどうも事実らしいのだ。知り合いが消えた…、同じ職場の先輩が消えた…、交友関係が少ない者、未婚の者ほど狙われやすい等々…。そんな書き込みは絶えず掲示板に上がり、しかし役所や警察は全く動かない。そしてそれらの書き込みも程なくして削除されるのだと言う。
何か大きな力や陰謀が働いているのではないかと匂わせるこれらの噂は得体の知れない不気味さをもって、今や人々の間に暗黙のうちに広まっていた。
「…俺を魔界へ連れ去るつもりか?」
「うん♪………ダメ?」
「ダメに決まっているだろ!?」
自分でも驚くほどの大声が出た。完全防音だというこの狭い個室の壁に反射し響き渡る。
しかし、彼女に動じた様子は無い。
「えー…じゃあ万魔殿でもいいよ?あたし一応堕落神信徒だし?」
なんだそれは…。
「んんー…、…それじゃあゲームしようか?」
「ゲーム?」
何か妥協した様子で彼女からの提案があった。
「そう、あたしたちが人間を魔界へ連れ出すにはまず契約を交わさなくちゃいけない。で、契約を結ぶにはその人間の精が必要なの。あたしが今からあなたの精を搾り取ろうとするから、朝まで我慢できたらあなたの勝ち。ここから逃がしてあげる♪」
精って…
「うん、精♪」
彼女の白くしなやかな指先がガウンの上から股間に触れてくる。
…おそらくそういうことなのだろう。
「んふふ、大サービスであたしの方からココには触らないであげる♪ハンデだよ?どうする?チャレンジする?」
「…チャレンジしなかったら?」
「本気で搾る♪」
選択の余地が無いじゃないか…。
「サキュバスの本気のテク、舐めない方がいいよ?たぶん5分ももたないから♪あと逃げようとしても無駄だから。この扉は外からロックされてて朝7時まで開かないんだってさー♪」
「ホテルごとグルかい…」
事実上受けざるを得ないこの状況。もともと罠に掛かった獲物に拒否権など無かったのだ。
「……わかった、やる。」
観念した。
「よしよし♪じゃあ始めね。悪いようにはしないからさっさと負けちゃっていいよ♪」
ブシュゥ―ッ!
彼女がそう言うと同時に薄い桃色のガスが狭い個室に満ちた。ほのかな甘い匂いが拡がる。
「何これ…!?」
「あたしの淫気♪まぁ、媚薬みたいなものだ
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