「ごきげんよう!ようこそ不思議の国へ!!」
「何処ここ…」
「だから不思議の国ニャ。」
自宅で本を読んでいたら突然謎の光に包まれ、気がついたときには見たことも無い場所に居た。
辺りを見渡せば奇妙に曲がりくねった木々、人の背丈を越えるほどの巨大なキノコの森、重力と建築基準法を完全に無視したなんだか良くわからない建造物の数々…をまるで絵本の中のような不思議な世界である。
これが最近本で見た異世界転生というやつだろうか……
………。
いや、確実に魔物の仕業である。
目の前でニヤニヤ笑っている紫髪の猫娘の存在がその証拠だ。
「どういうことなの…」
「おみゃーはこの世界に呼ばれたのニャ。女王様の気まぐれニャ、良くあることニャ。」
よくあってたまるか。
「いや、毎日何人かはやってくるニャよ?…本当ニャよ?まぁ猫に噛まれたと思って諦めるがいいニャ。」
「毎日何人も人が消えてたらこっちじゃ大事件だよ!!」
「にゃふーん。おみゃーら自分たちの時間が絶対だと考えないほうがいいニャ。時間の歪みなんて良くあることニャ。ほれそこにも…」
猫娘の指差した先に目をやると突然、歪んだ時計を模した巨大なオブジェが落ちてきた。
……。
…頭が痛くなってくる。
「まぁこれまでの世界の常識なんて早々に捨て去ることニャ。ここはそういう世界だからにゃーん。」
「帰る方法は無いんですか!?」
「この世界のどこかに居る女王サマの所まで辿り着けば、元の世界、元の時間にたぶん返してもらえるニャ。…でもこの世界は広大、さらに堕落の誘惑や罠、固有の魔物たちがキミの行く手を阻むニャ。大冒険になるニャよ?それでも挑戦するかニャ?」
そうは言ってもそれ以外に変える方法が無いならするしかないだろう。
「…するよ!」
「にゃはは!!その意気だニャ!それでは…笑いあり、涙あり、濡れ場ありの不思議の国の大冒険に、1名サマご招待〜!!」
猫娘が盛大に両手を広げた。
同時に木々がざわめきキノコが跳ね、何処からとも無く安っぽいファンファーレが鳴り響く。さながら昔やったテレビゲームのタイトルコールのようだ。
「…ではでは、改めて自己紹介ニャ。キミの冒険のナビゲーターを勤めさせてもらうチェシャ猫のスピセリアですニャ。よろしくニャ。」
「あ…うん、よろしく…。」
どうも距離感を測りかねる。
…で、まずは何処に向かえばいいのだろうか。
「いや、一人で進むのは自殺行為ニャ。まずは仲間を手に入れるのニャ。近くにショップがあるからさっそく向かうニャ。」
え…、仲間って店で買うの……?
つい突っ込みそうになるが先ほど常識を捨てろと言われたばかりなのでここはとりあえず大人しくついていくことにする。
程なくしてこれまた粘土で作ったような奇妙な造形の建物に着いた。チェシャ猫に促され扉をくぐる。
「あら、いらっしゃい。彼が今日の来訪者の方?」
「そうニャ。」「ども…。」
店主と思しき女性に出迎えられた。つばの広い大きな帽子を目深にかぶった妙齢の美女である。…が、胸元の大きく開いた扇情的なその服装は正直目のやり場に困る。
「そう、ようこそ不思議の国へ。これから長い永い冒険が始まるのだから準備はしっかりしていかなくちゃネ♪ここじゃ中途半端な装備や一瞬の油断で即永住決定<ゲームオーバー>だから…。まぁここの住人である私からすればそれもまた幸せだと思うのだけれど…どうかしら、私と一緒にここで魔法道具店をやるというのは?」
そう言って彼女はその豊かな胸を持ち上げて見せた。思わず視線を吸い寄せられるが、先ほどの彼女の言葉を思い出し慌てて目をそらす。
『一瞬の油断が命取り。』露骨な誘惑、既に試練は始まっているのだ。
「……なんてネ♪残念、そう簡単に引っかかってはくれないのね。」
…危なかった。
ここの住人はやはり油断がならないようだ。このチェシャ猫もどこまで信用していいものか……しかし、右も左も分からない異世界では彼女らに頼らざるを得ないのも事実。騙されないよう注意しながら案内を聞くしかない。
「…で、ここで何を買えばいいの?ていうか、そういえば今お金持ってないんだけど…」
在宅中に召還されたのだ、財布も何も持っていない。…そもそもあちらの通貨がここで使えるのか自体疑問だ。
「心配するニャ。ポケットの中を見るのニャ、ちゃんと冒険への挑戦を決めた時に所持金が付与されているはずニャ。」
「…!?」
…本当にあった。ズボンの左ポケットの中に小さな銀のコインが5つ!
「あの…これで買えるものは……?」
「ここから…ここまでね。」
けっこうある。
大きな何かの卵、なんかふにふにとした柔らかい帽子、かわいい少女が描かれ
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