……。
…ハッ
「ね……寝坊した…!!」
海底にある自宅の寝室にて目が覚める。時計を見ると既に正午をだいぶ回っていた…。
ついに約束の日である、と言っても実際は間に1日置いただけなのだが…しかしローゼにとってはその1日がどれだけ長かった事か。
昨日は色々と考えすぎて中々寝付けず、結果このザマである。
「…と、とにかく急がないと!!」
身支度も適当に彼女は家を飛び出した。その勢いのまま海面を目指し猛スピードで上昇する。そして、
シュパーン!!
水面より砲弾の如く飛び出した魚影は太陽を背に身を翻し、そのまま一直線に例の波止場へと着地した。
ビタッ!!
「ごめんッ!!待った!?」
シーン…
「…あれ?」
返事が無い。
不審に思った彼女は顔を上げる。ちゃんといつも彼が利用している雨避け屋根の付近に着地した筈…
しかし…
顔を上げるも目の前に少年の姿は無い。
「…あり?」
場所は間違いない。時間は言わずもがな…
「何かあったのかな…?」
突然体調が悪くなって今日は来られなくなった。…うん、十分あり得る話だ。
…此処に彼の匂いが残っていなければ…
嫌な予感がした。
腹の底に氷を突っ込まれたかのような、急激に体温が下がる錯覚、冷や汗が吹き出す。
そして…
「この匂い…」
つい一昨日初めて嗅いだ匂い…大好きな…彼の精の匂い……
なぜ…?
彼女の中で繰り返される不毛な問い掛け…この状況から導き出される最悪の可能性から必死に逃げだそうとするかの様に、ただひたすらその言葉を反芻した。だが所詮それは単なる逃避に過ぎない。なぜなら…
そこに残っていたのは彼の匂いにだけではなくそこに混じる何か別の臭い、ここにあってはならない臭い……
自分以外の魔物の臭い…
弾かれたようにベンチの前へと跳びついた。確認しなければならない、本当のところを…
…そして彼女はついに見てしまった。ベンチに残った、それを
「…ぁ……あ……!!」
決定的な証拠。
それは石の上に残った体液、彼と…知らない誰かの……
「…ぅぁ……あ……!?」
ぐにゃりと視界が歪む。
もう何があったのかは明白、彼は…自分が居ない間に別の誰かに犯され、連れ去られたのだ…自分が時間に遅れたせいで…。
「どうして…」
通常、魔物は既に相手のいる男は襲わない筈である。彼はもう自分が唾を付けておいた筈なのに……と、そこまで考えて彼女はあることに思い至った。
自分と例の少年との関わりを思い出してみる…。自分が彼の事を(一方的に)知ったのが1ヶ月前…話し掛けて知り合いになったのが5日前…その後やった事はと言えばパイズリ1回…
「あ……」
もう恋人になったつもりで勝手に舞い上がっていたが…その実やっていた事は通り掛けにただ精を提供してもらったに過ぎない、それもたった1回。そんなことは特に特別な関係ではなくとも人と魔物の間なら普通に起こり得る事である…特にこの街においては。
故に、彼女にその名も知らぬ魔物を非難する資格などないのだ。
「そんなぁ…………あ」
…ドボォン
よろよろと後退り、そのまま海中へと落下する。最早体勢を整える元気すら無くし、失意と後悔に打ちひしがれ、逆さまのまま海底へと沈んでいった。
…一体どこで間違えたのか。恐らくもっと強引にでも奪ってしまえば良かったのだ…魔物らしく。自分は臆病過ぎた。恋した相手を奪われるなどメロウの恥さらしもいいところだ…
…そんな思考ばかりが頭の中を廻り続け、いつの間にか海底の砂地まで沈没していた彼女は今度はオコゼの如く海底を這うように進み自宅を目指した。その間も頭の中では自責の念がぐるぐると回り続ける…そして一昨日とは真逆のテンションで自宅のベッドに突っ伏した。
「う…うっ…」
ブワッ
彼といっしょに住む筈だったこの家…これまで幾度となく夢想した、最早叶わない未来を思うと涙が溢れてきた。
「おぉぉぉ…」
…一目惚れだった。マーメイド種の持つ永遠の時間を、自分と供に過ごすのは彼しか居ないと思ったのだ。
止めどなく涙を流しながら、それでも、一時の快楽を以て少しの間だけでも悲しみを忘れる事が出来ればと、その手を下半身に伸ばす…が、彼を思って毎晩自分を慰めた日々を思い出し、更に大量の涙が溢れだした。
…あれほど好きだったオナニーも今はもう居たたまれない虚しさが伴う。恐らくこれからもずっと、手淫の度に彼の事を思い出し自分は枕を涙で濡らすのだろう。
ならばもう…
彼女は机下右側の引き出しを開ける。そこには柄を宝石で装飾された鋭利な短剣…昔彼女が海底で拾い、それ以来宝物として大事にしまっていた品である。
…これ以上生きていても仕方がない気がした。彼女達の時間は独りで生
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