「〜♪〜〜♪♪……うーん…」
……、
「♪〜……むぅー…」
…、
「…何をやっているんだ?」
…ついに我慢出来ずに尋ねてしまった。
…ここは魔王軍の所有する砦の一室。僕…名をリィルという…と、今そこで歌いながら唸るという器用な芸を繰り返し、部屋をうろついているセイレーンの、二人の私室である。ちなみに彼女の名はリィンという。
…同じ部屋で生活している僕らだが、別に夫婦という訳ではない。何となく気が合ったのでよく二人で行動している内にいつの間にか周囲から恋人認定され、僕が魔王軍に入ってからも二人して同じ拠点に飛ばされ、飛ばされた先のこの砦でも主が勝手に気を利かせて同室にしてしまったのだ。更には出勤日まで同じに合わせるという徹底ぶりである。
ちなみに僕は砦内の砲座待機任務が、彼女は近隣の空からの哨戒任務が、それぞれ週一回の頻度で回ってくる。…怒濤の週休6日制である。ここが特に激戦区という訳ではないということもあるが一応これもカップル用の措置だ。
…しかしなんか申し訳ないのだがお互い恋人と言うよりはまだ仲の良い友人のような感覚だった。僕自信そういった関係になるのはまだ早いと思っているし、彼女の方も特に手を出してくる様子も無いのでおそらくそういうことなのだろう。それでも休日はこうして一緒にお茶を飲みながらとりとめもなく話したり、市街へ出掛けたりはする。
しかしここ数日、彼女の様子がおかしい…今日のように歌っては唸りを繰り返しては部屋の中をうろつくのだ。元々歌を歌ったり作ったりは好きな魔物なのだが、目の前でこうされるとさすがに気になる。
そこで冒頭の質問に戻るわけだが…
「うーん…、リィル今なんともない?」
「…は?」
何が…?
「むー…やっぱダメかぁー…いや、今作ってる歌が上手く行かなくて…」
「へー、珍しいな。リィンが手こずるなんて…一体どんな歌なんだ?」
突然だがリィンは歌が上手い。特に音楽の知識が無い僕でも分かる程に。それも単に歌うのが上手いというのとは別にセンスというか何か天性のものを感じるそれである。なにせ日常生活の中で即興で歌を作りその場で歌い上げるのだ、しかも上手い。セイレーンとは皆こうなのだろうか?
そしてそんな彼女が手こずるような曲とは果たして…
「ん…聞くとイク歌。」
「ぶっ!!?」
思わず口に含んでいたお茶を噴き出した。
「ゲホッゲホッ…な、なんだって!?」
「だからーこの歌を聞いた相手は性的なエクスタシー、オーガズムを感じるのよ!」
「そんなもの作ってどうするんだ…録音して売るのか?」
げんなりしながら一応聞いてみる。需要は…何気にありそうで怖い。
「違うわ!軍事転用よ!!」
「はあ!?」
えへんっ、とあんまり無い胸を張りながら自慢げに宣うセイレーンについスットンキョーな声を上げてしまう。が、予想通りのリアクションだったのか彼女は待ってましたとばかりに説明し始めた。
「つまりこの歌を大型拡声器を使って大音量で敵軍に向けて流す訳。5分もすれば相手はみーんな腰砕け…あとは蹂躙するのみ捕虜取り放題!
戦争は…変わるわ!!」
そしてこのドヤ顔である。さては突っ込まれるのを待ってたな…
「…確かにそんな歌が出来るならそうなるかもしれないけど、実際問題出来てないんだろう?」
セイレーンの歌には聴いた相手を発情させる力があると聞くがそれとこれとは似て非なるモノ、いや、全くの別物なんじゃなかろうか。だとすればそう簡単に出来る筈が無い。それに本来そういうのはサバトとかの仕事だろう。
「だからこれからそれを完成させるのよ!…ふふ、これを見なさい!!」
そう言って懐よりピラリと一枚の紙を取り出して眼前に突き出してくる。
えーなになに…
「貴公の要望を受理…3ヶ月間の有給休暇を…許可する!?研究に邁進されたし…!!?
って…、えーーッ!!?しかも予算までついてる!ちょびっとだけど!!」
更に右下の端には方面軍総司令のリリム印が…
ちょっと…こんなのにゴーサイン出したのあの人!?
そしてもう一度立案者の顔を見た。
「(ドヤァァァァァ…)」
……、
大丈夫なんだろうかこの軍隊…
「という訳だから協力しなさい!!あ、リィルの分の休みも取ってあるから。」
「お前人のモノをッ!!」
…こうして見切り発車的にこの謎のプロジェクトはスタートしたのだった。
ーーーーー数日後…
「…つまり、音として受容した情報が脳内で別の情報に自動的に組み変わるように術式を組めばいいと思う訳よ。」
「脳に入ってから変質した所でもう遅いだろう…音の記憶が性感の記憶として残るだけだ。」
「じゃあ脳に到達する前のインパルスを?」
「そこを狙い撃つのは僕らの技量じゃ難しいんじゃないかな…
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