男は光とも闇ともつかぬ、明示し難い何かに満たされた空間を移動していた。
別段男が歩くわけでも、走るわけでも、ましてや泳ぐようでもなく、ただそのまま移動していた。
それが立ちながらなのか横になりながらなのかさえ、曖昧なその空間をひたすらに沈黙を保ち腕を組んだまま移動・・・いや、あたかも移送されるがごとく、どこかへ向かっていた。
ふと、男が目を開ける。ついで微かに独り言を呟いた。
「そろそろ、か」
と、その瞬間まるで男の言葉を待っていたかのように、突如として男の前方に溢れんばかりの光のような、底なしの闇のような形容しがたい何かが『開いた』。
迷わず男はそこへ進む。
「さて、今度の『世界』には何があるかな?」
男はその小さな呟きと共にそこへ消えていった。
「有り金と荷物を全部置いていきやがれ!」
時刻は深夜。野盗の首領らしき男が声高に叫んでいる。
数名の旅人や商人が乗る幌馬車を取り囲み、野盗たちは目をギラギラさせて今日の獲物を今か今かと襲わんばかりである。
幌馬車の車輪のひとつが野盗の奇襲により破壊されていて、既に動けない状態だ。更に言えば御者は矢によって射殺され、動けたとしても既に馬車を操れるものもいない。馬車に乗る誰もが震えていて動けない・・・ようではなかった。
一人の深々とフードを被り、旅装、つまりは丈の長い外装だが、それを羽織った者が一人、ゆっくりと馬車から歩み出てくる。
「すまんが、旅の途中でな。ここで貴様らに私のものを一つ足りとて、くれてやるわけにはいかんのだ」
その声は女性のものだ。しかも凛として響きがよく、遠くでも簡単に届きそうなほどである。
「ナメてんじゃネェぞ、コラァ!!」
野盗の数名が女性の声に反応し、一気に躍り出た。と、次の瞬間。
ブワッ!!
女性は外装を外して翻し、視界を奪うと同時にその背に担いだ大剣を、片手で苦も無く引き抜き、真横に薙いだ。
断末魔の叫びはあえなく外装によって阻まれ、くぐもった声が少しばかり聞こえるだけだった。
そして露わになった女性のシルエットを見た野盗たちは息を呑む。
「テメェ、魔物か!!」
首領らしき男が、若干後ずさりながらそう叫んだ。
そう、彼女の体には【人間】にはありえない尾という部位や、緑色に月明かりを反射して輝く鱗が存在する。リザードマン、一般的にそう呼ばれる魔物である。また、彼女達は誰もが美しい姿をしていて、人間の中には彼女達と接するために腕を磨くものさえ―、ごく僅かだがいるらしい。
「その通りだ。武者修行兼夫探しだが、あいにく貴様らでは役が務まらんようだ」
振りぬいた姿勢のまま、彼女は野盗たちを睨み据えながら応えた。
しかし首領らしき男は何を思ったか、顔を俯かせ先ほどとは逆に今度は一歩あゆみ出てきた。
「へ、へへ。そうか、魔物か。クク、ハハハハ」
まるで人が変わったかのように肩をゆすり、暗い笑いを漏らしている。
リザードマンの女性はいぶかしんで眉をひそめ、しかし注意を怠り無く注いでいる。
と、首領らしき男は唐突に何かを抜き放ち、地面に突き刺した。あまりに一瞬の出来事だった為、リザードマンの女性は反応が遅れてしまう。そして時既に遅し、地面に複雑な魔方陣が光を放ち、浮かび上がった。
「な・・・!?これは・・・・・・・!!」
リザードマンの女性の顔が苦悶のものに変わる。
「ハハハァ!以前奪い取ったモンをいざって時のために持ってたが、まさかこんな形で役立つとはな!そう、《破魔の結界陣》だよ!」
《破魔の結界陣》とは特定空間内の魔力を根こそぎ放出し、同時に魔の力に拠って立つ者を拘束するという、魔物とって最悪の相性といっていい代物である。首領らしき男はそれが封入された呪詛筒を地面に突き刺して発動させたのである。
「く・・・不覚だ・・・・・・・」
これから訪れる自分の未来にリザードマンの女性が惨憺たる思いを口にする。
「まあ?これからは俺様の奴隷として使ってやるから、そんなに落ち込むこたねぇよ」
正逆に首領らしき男は声が弾んでいる。周りの野盗たちからも野次が飛んでいる。リザードマンの女性は項垂れ、それ以外の皆の視線は、それに宿る感情こそ違えどその姿に向けられていた。
だからその場にいる誰もが気付けなかった。
自分達の頭上に異変が起こっていることに。
Qバ$&#☆ギёH%RピΘπG!!!!!
音として形容しがたい音が大音量で辺りに響いた。
堪らずに一斉に全員が目をつむり耳をふさいだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
やがて辺りが静まり返っていることにその場の誰もが気付き、目を開けるとそこには、一人の男がいた。
「【LUFFY】め、演算をしくじったな。人のいるトコに転送しているじゃないか」
誰も声を口に出来ぬ中、男が一
[3]
次へ
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録