不毛な戦争

ーーそこに、一つの戦争がありました。
それは人類が言葉を手に入れて以来、ずぅっと続いて来た戦争です。
終着の見えないその戦争は幾度となく繰り返され、今もまだ不毛に、人々を消耗させていました。


「だから、胸なんてものはただの脂肪の塊だろ!」
「尻のどこがいいんだ! あんなもの、筋肉という不純物が混じった、まがいものじゃないか!」
本当に、ーー不毛でした。

見かねた聖職者が言います。
「何故、人は互い手を取り合うことが出来ないのでしょう。胸も尻も、女体という一つの神秘に根ざした尊いものではないですか」
「うるせぇ! そういうのを節操無しって言うんだよ」
「単に選べないだけじゃないか! 臆病者の偽善者め!」
男たちは彼を罵倒します。

昔の人はいい事を言いいました。
ーー『目クソ、鼻クソを笑う』

「おい、小僧ッ! お前はどう思うんだ
#8265;」
「そうだそうだ。子供の純粋な目なら、ちゃあんと選んでくれるはずだ!」
戦争は、子供すらも巻き込み、ひたすらにーー不毛で、彼らはーーどうかしていました。
「おやめなさい。主が悲しみます。ーーハァハァ、それを思うと興奮します」
性職者が厳かな声で言います。しかし、彼の声は、苛立った男たちの耳には届きませんでした。
男たちは、少年に詰め寄ります。しかし、少年は男たちの剣幕に負けず、無垢な顔で、ニコニコと微笑んでいるだけでした。

「お前くらいの年なら、まだまだ、母親のおっぱいが恋しいだろう。だから、胸だよな胸!」
「いいや、股ぐらからコロンと転がり出て来た時に、初めて見る尻、だよな!」
「いけません。どちらも等しく尊いものです……」
性職者は少年に『分かっているよな』という目を向けていました。
何と悲しいことでしょう。戦争は、性職者の心にすら刃を持たせます。

しばらく、彼らの残念な話を聞いていた少年は、

ーーパンッ、と。突然、両手を打ち鳴らしました。

男たちは、急なことに、ポカンと口を開けて固まってしまいます。
彼は、少年特有の無邪気な顔で、
「能(よ)ッく、ーー分かりました。それでは、ご店主をお呼びいたします。ご店主であれば、あなたたちの論争を見事におさめてくれるでしょう」と言いました。

男たちはその言葉に我を取り戻し、また口角泡を飛ばし始めます。
「そうだ。俺たちは、そのためにここに来たんだからな! 胸だ!」
「始めっから勿体ぶらずにそうしろよ! 尻だ!」
「おお、主よ。ついに、厳正なる裁きが下されるのですね……。酒だ!金だ!女だァ!」
ーー我を取り戻さない方が良かったかもしれません。

少年は無邪気な声で、「ご店主ー」と叫びながら、奥に引っ込んで行きました。


ーーここは、古書店でした。
古今東西ありとあらゆる本を集め、それを読み売っている、聡明な店主が経営する店でした。
ここの店主には、ーー決着のつかない論争を見事に解決してくれる、という噂がありました。
日々、不毛過ぎる論争を繰り返す男たちを見かねた友人が、彼らのケツをーー文字通りひっぱたいてーー送り込んだのでした。
そんな彼らの論争に、巻き込まれてしまった少年はいい迷惑です。
しかし、少年は健気にもーー彼らの話を納得のいくまで聞き、今、ようやく店主を呼びに行ったのでした。

「さぁ、これで胸こそ一番であることが証明されるだろう」
「フン、尻の尊さが分からない愚物は、頭の回りも遅いと見える」
「グフグフ、少年も悪くはないでござるな」
戦争は、新しい戦争(せいへき)を呼び起こすものでした……。
三人の男が、店主を(少年を)待ちわびていると。

シャラリ、ーーと。
優雅な衣擦れの音を響かせて、店主である白澤が現れました。
彼女の姿を見た男たちは。

ーーーー崩れ堕ちました。

胸を至高としていた男が言います。
「な、なんという尊い尻だろう。俺は今まで何という勘違いをしていたのだ。嗚呼、尻に踏まれて窒息してしまいたい……。脂肪とは、筋肉という確固たる土台があってこそ、映えるものだったのか!」

尻を究極としていた男が言います。
「俺が間違っていた……。なんという見事な胸だ。大きすぎず、小さすぎず……。見ているだけで吸い寄せられずにはいられない、柔らかさと圧倒的な抱擁力。これが、バブみというものなのかーー」

死んだ方がいい性職者が言います。
「少年! 私だ!」

白澤は彼らにスラリとした流し目を送ります。
その妖艶な眼光を向けられた男たちは、股ぐらがムズムズしました。
チロリと見えた、真っ赤な舌がーー、
少年の舌に絡め取られました。

わけも分からず呆気に取られる男たちの前で、少年は貪るように、彼女の口を吸います。
その究極の胸を乱暴に鷲掴みにして、その至高の尻も問答無用で弄(まさぐ)ります。
白澤は、その聡明な顔を淫らに
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