鳥。動物界脊椎動物門鳥綱の総称。
爬虫類から分岐し、哺乳類と異なる空を行く彼らは、飛行能力の有無に関わらず翼を持つ。
飛べるものはなおさらに、体を軽くするため、彼らの骨は軽くて脆い。
骨というモノは、体を支えるという事以外にも重要な役割を持つ。
それは、何か? ーーカルシウムの貯蔵庫である。
生命の肉体は入れ替わる砂の楼閣であり、その体は止まることなく新しい物質で置き換わる。
何が言いたいかというと、骨に貯蔵されたカルシウムは使用される、ということだ。そうして再び蓄えられる。貯蔵庫なのだから、当たり前。それは使用するために蓄えられている。
DNAの乗り物である生命は、命の継承が己の命題(テーゼ)。
だから、鳥は、ーーそんななけなしのカルシウムを我が子を守る殻として動員する。その中に、守るべき我が子がいないとしても。
システム化された生命は、DNA(せっけいず)の基盤に基づいて、条件のスイッチで明滅する。そこに意識が介在する隙間は、
ーー無い。
◆
「どっこいしょ」
和冬の診療所に、医療機器、医薬品が運び込まれてきた。
「ふぅ、これで全部ね」
「ああ、ありがとう」
診療所の主である和冬(かずと)が礼を言う相手はリリム。
この世の全ての美を凝集させたような白い髪。その瞳は彼女を求めた男たちの血に染まったような、人を狂わせる艶やかな赤。天上の彫刻家が何人集まったところで表現できそうにも無い、極上のプロポーション。ーーそんな彼女が。
「ふぃー、終わった終わった。こんな重たいものを運んできたせいで、腰が痛くなってしまったわ。腰を痛めるのは、ベッドの上だけにしたいわね」
とチラリと和冬に流し目を送ってきた。……おっさんだった。和冬は露骨に彼女から目をそらす。
ーーまだ、相手が見つからないのか。とか。
ーーもう、腰を痛める年だろう。とか。
そんな事は思ったところで言ってはいけない。
「今、行き遅れの年増って思ったでしょ!」
「そこまでは思っていない!」
「ふーん、じゃあ、どこまで思ったのかしら」
美貌のこめかみに青筋を立てながら、冷たい笑顔で、リリムである結(ゆい)が和冬に迫ってくる。和冬は冷や汗を垂らしながら、目をそらし続ける。と。
「あー、リリムのおばちゃんでちー」無邪気な声がかかり、「誰がおばちゃんじゃあー!」声の方に結は駆けて行った。「ごめんなさいでちー。許してでちー!」向こうから本気で慌てている声が聞こえる。
和冬は自分の嫁の一人である、Pちゃんに対して合掌すると、結に届けてもらった品物を丁寧に棚にしまっていく。
和冬はもともと、図鑑世界では無い現実世界の住人である。世界を移動することのできるほどの力を持ったリリムである結の手で、この世界に連れてこられた。図鑑世界で自身の知識を活かすために、彼女に様々な医療機器を届けてもらっている。
いくら診療にかかる費用が領主持ちだとはいっても、レントゲンや超音波、血液検査機器などは、こちらの世界に換算してあまりにも高価で購入できないが、点滴、心電図、麻酔器などといった小さな診療所に必要な器具は十分に揃っていた。電気は知り合いのサンダーバードに頼んで、いくつものバッテリーに充電してもらっている。
魔法が普通に存在する世界である図鑑世界。それでも、物理的な手段が必要になる時はもちろんあるのである。
ーー特に、緊急時なんて。
◆
「急患だよ!」
奥でカルテを書いていた和冬は、その声を聞いて急いで診察室に入った。
そこにいたのは、
ーー口から涎を垂れ流し、白目を剥いて、全身を小刻みに痙攣させているコカトリスの少女の姿だった。一目でわかるエマージェンス(緊急状態)である。
「血管確保! 輸液剤とステロイド剤……、あまり使いたくは無いが、抗痙攣薬に鎮静剤も準備しておけ!」
「了解、ほとんど準備はしてあるよ」ナース服を着たワーウルフの少女ブランと稲荷の女性桔梗、女郎蜘蛛の女性紬がテキパキと準備をしていく。確かに。和冬がくるまでに、すでにほとんどの準備がされていた。
コカトリスの体には、すでに心電図、血圧計、SpO2センサーが取り付けられている。
「跳ね上がる可能性もあるから、念のためベッドに縛り付けておいてくれ。触診できるように、重心だけを抑える形で!」「了解じゃ」女郎蜘蛛の紬が糸でコカトリスの手足と腰の部分だけでベッドに固定していく。「ん?」紬が不審そうな声をあげた。
「こいつを連れてきたやつは?」和冬は彼女の腕に留置針(点滴を流す針)を設置して叫ぶ。
「僕だよ。さっき外で倒れてるのを見つけたんだ」ブランが言う。
「じゃあ、こいつがどうしてこうなったのか、問診できるやつはいないということか……」
チッ……、仕方がない。血液検査も出来ないここでは、思いつくものからやっていかなくてはいけな
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