2.マルタン受難

女勇者カーラ・マルタン。
反魔物国エルタニンが所持する最大戦力です。しかし、事実エルタニンは彼女の扱いに困っていました。
彼女は根っからの勇者であると同時に、根っからの武人でした。エルタニンにとって不幸だったのは、彼女が初陣であの竜に出会ってしまったことです。強大な力を持った赤い竜と剣を交えた彼女は、彼の竜は打ち倒さなければならないものであり、打ち倒すまでは他の魔物に手を出さないという誓いを立ててしまったのでした。

それから、彼女は何度も何度も赤の竜と戦います。
いくら赤の竜が強大だとはいえ、こちらから手を出さなければ大人しくしていてはくれます。
本当は竜は放っておいて眠っていてもらって、他の魔物を討伐しに行かせたいのですが、彼女は従いません。エルタニンの最大戦力である彼女に力ずくで命令を聴かせられるような人物もいません。
困りつつも、実際に赤の竜と戦えるような勇者は彼女しかいないので、最大戦力を動かせないことは残念ですが、赤の竜を倒してくれたら儲け物として黙認しているのでした。


深紅の天災ヴェルメリオ。
深紅の体躯をは巨大。吐き出す炎のブレスは天を燃やし、地を焦がし、海を消す、とまで言われた古い竜です。
古い竜とはいえ、もちろん彼女も魔物娘に変わっています。だから、彼女が人を襲うことはあり得ません。カーラとの戦いも初めはただ鬱陶しい人間くらいにしか思ってはいませんでした。いくら人間の中では強いとはいえ、彼女にとっては赤子の手をひねるよりも簡単に退けることができました。挑まれては返り討ちにして、虫の居所が悪かった時には勇者の治癒力でも2ヶ月はかかる大怪我を追わせてことさえあります。

それでも、彼女はやって来て。前よりも強くなっていて、竜に挑みました。
叩けば叩くほど強くなって返ってくる。初めは尾の一振りで事足りたものも、次には避けられて爪を使い、次には牙を使わなくてはいけない。
彼女が強くなるということは竜にとっては危険なことのはずなのに、いつしか竜は彼女が強くなることに喜びを見出していました。
竜の力の前では、人間どころか魔物ですら敵ではありません。よほど強いものでなければ、竜に近づこうというものはいませんでした。
それなのに彼女は真っ直ぐに竜を見て、真っ直ぐに竜に向かってくるのでした。
その目は何度うち倒されても諦めることを知らず、いつも力強く輝いていました。その目が好きで竜は彼女を気に入っていました。

幾度も重ねた戦闘で、とうとう彼女の力は竜に匹敵するようになってきました。
三日三晩戦い続けたこともあります。それでも、決着はつきませんでした。
もしかしたら、お互いにこの関係がずっと続けばいいと思っていた部分もあったかもしれません。


しかし、そんな竜と勇者の戦いは、紛れ込んだブレイブという異物によって終わりを告げることになってしまうのでした。





打ち合わされる剣と爪。命をかけて、己の全力を出して戦いを繰り広げる竜と女勇者。
それはいつもと変わらない死闘のはずであったのですが、今回はブレイブが紛れ込んでしまいました。

正直なところ、カーラもヴェルメリオも気が気ではありませんでした。
お互いに本気ではあるのですが、幼い少年であるブレイブに怪我をさせてはまずいという気持ちがちらつきます。

ブレイブを見つけたヴェルメリオが避難させようとしたのですが、カーラはブレイブが襲われると思ってしまったのでしょう。ブレイブの盾になって、戦闘を始めてしまうことになったのでした。今回は戦闘を切り上げても良いものですが、お互いにプライドが邪魔をして自分から先に戦闘をやめることができません。

ブレイブが身につけている鎧がリビングアーマーだということに二人はおそらく気付いているので、よほどひどいことにならないとはお互いに思ってもいるのでしょう。

そんな竜と勇者の物語をブレイブは相変わらずキラキラした目で見ています。
気付いていないですが、ブレイブ君がいることは邪魔なんです、危険なんです。

ブレイブがいるせいで距離をとっての魔法もブレスも使えず、ひたすらに剣と爪で撃ち合っていたからでしょう。今回の戦いの終わりがいつもより早く近づいてきていました。
毎回彼女たちよりも先に武器が壊れて戦いが終わるのです。

カーラの剣が甲高い音と共に砕け散りました。
戦いの終わり、キラキラと宙に舞って落ちていく銀の粒が鐘の音のように告げます。
少しほっとするカーラとヴェルメリオ。
次は邪魔の入らないところで。
女勇者と竜は、視線で言葉を交わして別れようとします。
風が穏やかに投げれ、カーラの黒髪を揺らします。



そこに、空気の読めない邪魔者が、
「これを使ってください!」
リビングアーマーの力を借りてカースドソードを投擲しました。
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