ヴィヴィアンの城に連絡が入る。
至急、ブレイブたちを迎えにくるように。
決して、戦列には加わらないように。
そんな内容であった。
ゲートをくぐり、ヴィヴィアンとカーラは、ドルチャイに戻る。
そこで、見た光景に、二人は絶句する。
ここでも、これが繰り広げられたのか。ヴィヴィアンがルチアと戦ってくる中で、散々目にして、目にさせられた光景。
それが、ここ、ドルチャイでも繰り広げられていた。
カーラはブレイブを探す。こんな場所では一刻も早く、ブレイブたちに合流しなくてはならない。
地獄にいるのなら、どこに至って安心などできるわけがない。
ヴィヴィアンとカーラはブレイブを探して走り出した。
◆
メイが恐れていた光景が現実のものとなっている。
メイは走る。ブレイブたちは街の内側に避難させた。
こんなもの、子供に見させるものではない。
メイは涙を流しながら、ひた走る。
夫にも駆けつけてきてもらえるように、伝達した。
これから、どこまで止められるのか、分からない。
もっと酷いことになるかもしれない。だが、こんな酷いことをするとは、思いもよらなかった。
こんな、こんなーーー。
人間そのものを武器にするなど。
◆
爆ぜる。
爆ぜる。
真っ赤な花を咲かせて、血袋が爆ぜる。
教団兵の体に歪な紋様が浮かぶ。それは刻まれたものの魔力を暴走させ、体を爆ぜさせる紋。
血液の焦げる匂いがする。肉の焼ける匂いがする。すえた炭の匂いがする。
花火の近くにいた者たちは、残骸となって飛び散ってくる彼らの礫を受けている。
湧き起こる阿鼻叫喚の嵐。鎧が、骨が、礫となって、生者に猛然と襲いかかる
礫は無念の散弾銃である。ダッタッダ。それに貫かれて、バタバタと倒れていく人々がいる。
生きていても、信じられないという表情で立ち尽す人がいる。呆然と、亡全と。その悍ましい光景に、狂乱して走り出す者がいる。
誰も彼もが、いっしょくた。敵も味方もなく、人も魔物娘もない。狂乱の混沌は渦を巻き、何もかもを嘲り嗤う。
伴侶を伴った輝かしい凱旋が、悍ましい悪意を引き入れる結果になった。
人と一緒に爆弾を詰めたトロイの木馬。己を否定し、ただただ敵を殺せればいい。
ドッド、 爆(バ)ァッバ。
あちらこちらで。狼煙が上がる。コチラアチラで。
命を全て否定する所業。神が駆り立てたのではない。
人が理性を以って、選び取った所業。
己の体に浮かび上がった紋様を見て、叫び声をあげ我武者羅に駆け出す教団の兵士たち。
奔。鬼気迫る表情。嬉々とした表情。燃。
己の体の内側から飛び出そうとしている死を目前にして。恐れを抱く者だけがいるわけではない。恐れを振りまこうと走る者がいる。
ヒルドールヴの爪。自らを爪のただの一本であると称して、個を失った者共。
爪が街路を抉り、人々を嬉々として追い立てる。ドン、ドンと混乱が広がっていく。
地獄が地上に顕現している。それは、人が描いた地獄絵図。
ゴ、不、ぎ、ぎぎぎぎ、怒、豪、渦、ぁああああ。
「な、何だよこれ。何で俺の体にこんなものが浮かんでるんだよ」
「だっ、ダメッ! せっかく出会えたのにもう終わりだなんて、絶対イヤぁ!」
バンっという。無情な音。
しがみついた彼女も含めて、兵士の体が飛散する。
中に詰まっていた、血も肉も。糞尿も、骨も。焼け焦げながらブチまけられる。
降ってくる肉片混じりの赤い雨。ピンクの臓器はコンガリと。
頭蓋の容器は粉微塵。脳漿、漿、漿。入り混じる。
それらは凶弾となって、周囲の人々に襲いかかる。
紋様の浮かんだ者を魔界銀の武器で切ったところで、その結末は変わらない。
相手を殺さなくては止めることはできない。
魔物娘たちにそのようなことが出来るはずもない。
混乱と悲哀が、憤怒が、怨嗟が、濁流となって、人々を狂騒へと押し流す。
爆発は家々に火をつける。ゴウゴウと、建物が唸り声をあげて燃え上がる。
狂騒の熱風がそこかしこで吹き荒れる。
そこに、門から踏み入ってくる一団がいる。彼らは無骨な大筒を持っていた。白々しい白銀の砲身は、炎を受けて照り輝いている。
「生きている勇者はみぃんな、しゅ〜ご〜う」
先頭に立つ青年。牙が声を張り上げる。
「こんな状況で何を言っているんだあいつら」
1町人といった服装の彼らに、教団の兵士もドルチャイの住人も訝しがる。
「何だ?! 足が勝手に……」
一人の勇者が牙の元に歩いていく。
「よしよし、お利口お利口」
牙がその勇者の頭を撫でて。そのまま首をへし折る。ゴギリという鈍い音がする。
「きゃぁああああああああ!」
「うわぁああああああ!」
いとも容易く行われた凶行に、人々は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
残ったのは、体の自由がきかない勇者たち。勇猛果敢な勇者であったはずの彼らは
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