35.マーブル・フィリア

コンコン。
ノックの音がしています。
私はそれに気怠げに答えます。
「ヴィヴィアンさまのお友達という方がいらっしゃっています」
「帰ってもらってください」
私は女中に即答します。
ここまでこられることは驚きですが、私が会うわけがありません。
私はにべもなく即答します。
「しかし……」
言葉を濁す女中。そこに粗野な声が割り込みます。
「構わん。押し通させてもらう」
駕(が)シャァァん。
扉が無作法に開け放たれます。カーラです。彼女は元貴族であるというのに、この有様は何なのでしょうか?
「躾がなっていませんね。ヘレンに教えてもらわなかったのですか?」
私の皮肉に対して、カーラはいけしゃあしゃあと答えます。
「私が教えてもらったのはショタの神髄のみだなぁ!」
ふはははー、といつもの調子。
私の気持ちを知ってか知らずか、ズカズカと私の部屋に踏み込んで来ます。そして、ベッドに突っ伏していた私の胸ぐらを掴んで引き起こします。
黒髪の幼女(カーラ)が白髪の幼女(私)を引きずり起こす。子供の喧嘩の様相。しかし、中身も内容も子供じみてはいません。
「お前はブレイブを一人占め出来なくて、逃げ出したそうだな」
カーラが不敵に嫌らしく。ニヤァっと笑います。私はそれに沈黙で返すしかありません。
「リリムさまと言っても、中身は女の子だったわけか。ブレイブハーレムを作ろうと意気込んでいたのは誰だったのかな?」
カーラは無遠慮に私のおでこにおでこをくっつけます。至近距離で睨みあう私たち。私は精一杯の気力を持ってカーラを睨みつけます。
「あなたなんかに私の気持ちなど分かりません」
「ああ、分からないさ。お前が教えてくれないからなぁ!」
カーラのおでこが私のおでこをグリグリと押し込んで来ます。
「だから教えろ。お前の気持ちを教えてみろ」
私は歯噛みします。
「リリム、ヴィヴィアンよ。お前は誇り高き淫魔の姫なのだろう。淫らに皆が乱れることを望んでいる。お前自身が、一人の男を求めることを否定はしない。だが、自らが合わせた男女を引き離して、独り占めしようなどとはいただけんなぁ!」
「私だって、そんなことをするつもりはありませんでした。でも、心が、どうしようもなくブレイブを独り占めしようとしてしまうのです。それは、仕方がないではないですか」
「くっくっく。そうだ、仕方がない。仕方がないがーー。己を磨かずに、ただ攫って行こうなどという性根が、私には認められんのだ」
「そんなことはありません。私はただ……」
「いいや、違わない」
カーラが私を否定します。
「お前は自分に自信がない。だから、真正面から戦おうとせずに絡め手を取る。百歩譲ってそれはいいとしよう。だが、私はそれで済むと思っていたお前の性根が許せない。ヴィヴィアン、お前、私たちを舐めていないか?」
「そんな……こと……」
カーラが至近距離で私の目をまっすぐに見てきます。彼女のまっすぐな瞳に、私の瞳は揺れてしまいます。
「答えられないか……。だが、私はお前が私たちを舐めていると思う。お前が裏で手を回して目覚めさせた魔物娘。それが私たちだ」
カーラは知っていました。白衣から聞いたのでしょうか? ただの脳筋だったと思っていたカーラの認識を私は改めます。
改めて……、気がつきます。ああ、確かに彼女のことを舐めていたのかもしれません。私が自らの目的のために、手を回して生み出した魔物娘。リリムでもある私には勝てるはずもない、と。目を泳がせる私にはカーラは告げます。
「ともすれば、私たちはお前に勝てないのかもしれない。性技にせよ、実力にせよ……。だがな」

ーーーブレイブを思う気持ちは決して負けはしない。

カーラは私にその言葉を叩きつけました。
「お前もそう思っていたのではないのか? 私はお前もそうだと思っていた。しかし、今、お前はその気持ちにすら自信がないように見える。だから、逃げ出した。お前は私たちだけではなく、お前自身をも舐めている。私が思っていたお前は、そんな程度じゃない」
カーラの言葉に、私は意気込んで返します。
「当たり前です。ブレイブを思う気持ちは、絶対にあなた達にだって負けません」
そこでようやくカーラは私のおでこからおでこを離してくれます。
「そうだ。その意気だ。ならば、なぜ、こんな所に逃げ出した?」
「そ、れは……」
私は口ごもります。
それは正直、私にも分からないのです。
分からない。抱いたことのない感情。ただ、ブレイブが好きで、彼が気持ちよくなっていられれば、私の気持ちなんて、二の次。
だからこそ、私はブレイブを計画の要に位置付けた。ブレイブを要としたAIK計画。

ーーでも、私は今になって、私の気持ちを無視できなくなってしまったのです。

私はブレイブを私だけのものにしたくなってしまったのです。この計画
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