28.幕間:マステマーず(教会勢力、ルッチーパーティ)

「大司教っ、マステマス大司教っ!!」
「何だ、ここは神聖なる教会。もっと静かにしたまえ」
廊下を息急き切りながら駆けてきた兵士を爬虫類じみた目がギョロリと睨んだ。
「っ、申し訳ありません」
彼とて歴戦の戦士ではるのだが、相手が悪い。感情を感じさせない無機質な目に睨まれてゴクリと喉を鳴らしてしまう。
「気をつけたまえ」
「はっ!!」
神経質そうな声音は兵士の返事など聞いてもいないように彼を促す。
「それで? 何か用かね」
「はいっ。ヒルドールヴの方々が帰還されて、至急大司教にお目にかかりたいと」
「……ふん。わかった。今どこにいる?」
「兵士宿舎の前の広場です。その、今しがた帰られたばかりで……」
言葉を濁す兵士にマステマスは無機質な視線を投げかける。
「ああ……、そのまま帰ってきたのか。ならば、しっかりと汚れを落として、そちらから来いと伝えろ」
「そ、それが至急お伝えしたいことがあるので、と……、申しておりまして……」
大司教相手になおも食い下がる兵士に対して、マステマスはつまらなさそうに言う。
「大方、私が来ないようなら、引きずってでも連れて来いと言われていたのだろう。そうしなければ、お前を殺す、と」
コクコクと慌てて頷く兵士を置き去りにしてマステマスは歩き出す。
「知らん、勝手に殺されろ。聖言くらい、誰かが唱えてくれるだろう」
「大司教様っ、お願いいたします!!」
今にも泣き出しそうな様子で兵士は懇願するが、
「教会では静かにしろと言ったはずだが?」
マステマスは振り向きもせずに言う。
兵士は今にもマステマスにすがりきそうではあったが、それをしてしまうと今度はマステマスに殺されることになってしまう。
兵士は行き場のない手を宙でわなめかせた。

「ひっどい、大司教さまだねぇ」
二人の後ろから楽しそうな声がかけられた。
「至急って言ったのに来てくれないもんだから、こっちから来なくちゃいけなかったじゃないか。ちゃんとお使いしてよ、キミィ。連れて来なかったら、どうなるか言わなかったっけ?」
「……あ、ぁ……」
兵士から歯をカチカチと噛み合わせる音がする。
マステマスは声の主に向かって振り向き、相手の姿を上から下まで見てから口を開いた。
「ちゃんと、綺麗にしてから来たようだな」
「あっはぁ、当たり前でしょ? いくらボクらでも教会に汚れたまんまじゃ入らないよ」
「しかし、前までは来たわけだ。街の中はそのままで来たのだろう」
「うん、そだけど?」
「街に入る前に汚れを落とせ」
「えー、それもダメ? だって至急の話があったし?」
「手紙なりで早馬で届ければ良かっただろう。魔物の汚れた血など街にも持ち込むな」
マステマスは吐き捨てるように言う。
「はい、はーい。ごめんなさーい。でも、この話は直接聞かせたくてさぁ。ルチア、ヤラレちゃったって」
「ほう」
マステマスは初めて興味を持ったような声を出した。それでも、瞳に感情はない。
「ならば、話を聞こうではないか」
去っていくマステマスともう一人。その後ろ姿を見送って、兵士は初めて大きく息をついた。





「そうか」
マステマスは執務室で相手の報告を聞いてそれだけを口にした。執務室の中の無骨ながら座りごごちのよいソファーに向かい合わせで二人は座っている。
「とうとうあの女が落ちたか……。他のモノスの動向はどうだ?」
「んー、他は分からないなぁ」
砂糖菓子を噛み砕きながら彼は答えた。
「お前たちが掴めていないということはあまり活発に動いていないということか」
「信頼してくれてるのは嬉しいけどさ、もちろん僕たちもカンペキじゃないんだよ?」
「当たり前だ」
おどけた調子の声にマステマスの静かな声が返される。ボリボリと砂糖菓子を噛み砕く音だけが部屋に聞こえている。
「んぅ? 僕らの任務の報告は聞かなくていいの?」
「聞いた方がいいのか? お前たちが戻って来たことが何よりの報告であり、不備があればそちらから申し出るだろう」
「あっははは。確かにそうだけどね。形だけでも、しといた方がいいんじゃないかな? ボク、あのやり取り嫌いじゃないし」
「わかった。ならば聞こう」
マステマスはギョロリと彼に目を向けた。彼は口の中のものをゴクリと飲み込んで居住まいを正した。

「街の住人は?」
「全て殺した」
彼は昼食の内容を答えるかのような気軽さで答えた。

「そうだ、魔物娘もインキュバスも、そして彼らを受けれた人間は死ななければならない。死体は?」
「全部集めて燃やした。骨も残らず灰になった」
部屋の掃除はちゃんと済ませましたと報告するようだ。

「そうだ。せっかく殺したのに、アンデッドとして復活されては元も子もない。生き残りは本当にいないのか?」
「うん、最後に街ごと燃やし尽くしたからいるはずがない」
テストの見
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4]
[7]TOP [9]目次
[0]投票 [*]感想[#]メール登録
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33