「うわぁ、すごい……」
ブレイブは街の中を見渡して感嘆の声をあげた。
言われていた通り、確かに街の中には子供達しかいない。その誰も彼もが楽しそうな顔をしていた。
コテコテのファンキーな荷車?を動かすグレムリンがいる、屋根の上では誰に跳びつこうか品定めをしているケセランパサランがいる、仲睦まじそうに歩くアリスと少年のカップルに、姉妹だろうか転んだハーピーを起こすもう一人のハーピー、起こしてあげた方が相手を「お母さん」と呼んでいたのだが、……それはそういうことなのだろう。
見渡す限り、大人の姿はなく、店を経営していてお金を受け取っているのも払っているのも子供。
人物たちの関係性が一見倒錯したような、おままごとのようにみえる光景が実際の街の風景であった。
ブレイブたちは適当な宿を見つけると、そこに馬車を預けて一息ついた。
ーー部屋の中にはヴェルメリオを抜いて二人増えた以外はいつものパーティ。しかし、水面下では壮絶な火花が散っていた。
(このォォォ、幼くなった途端しおらしくしおッてェェ!)
(これが、リリムの本気!? 甘く見ていました……)
(ふひひひ……、私見られてる)
(き、着替えさせて欲しい……)
(姫と王子に罵られる駄馬、……ああ、待ち遠しいですわ)
(ど、どうしよう……)
(なんとかして、バケの皮を剥がせない、かな?)
ベッドに腰掛けたブレイブにすり寄ってコテンと肩に頭を預けて微笑んでいるのは、変態痴女の名を欲しいがままにしていたはずのヴィヴィアン。それが。
なんということでしょうーー開けば残念な発言しか漏らさなかったはずの口は、穏やかな微笑を湛えて出てくるのは優しい言の葉。隙あらばブレイブの股間に伸ばされてさすっていた指は、蠢くことなくキチンと揃えられて膝の上に乗っている。色気の暴力を撒き散らしていた煩いまでの双丘はなりを潜めて、彼女の呼吸に合わせて揺かごのように揺れていた。真っ白なワンピースに身を包んで、まるで御伽噺の中から出てきたかのようなお姫様がそこにはいた。
しかし、どうしたことでしょうーー頭の中はクサヤの如き変態的な異臭が漂い、欲望がハエのようにブンブン飛び回って、ブレイブに飛びかかりそうになる衝動を必死になって抑えていた。
「ブレイブ、……さま」
「ひゃっ、はいっ!!」
「どうしたのですか、そんな風に固まって」
白髪の姫君は淡い陽光のような微笑みを浮かべながら、ブレイブの顔をマジマジと見つめた。
変態発言さえしなければ、ただでさえ絶世の美女であったヴィヴィアンが幼い容姿になり、その上で変態発言を封印していた。その理由として、記憶喪失である、と本人は宣った。これが闇の叡智とまで呼ばれた女の猿知恵である!!
皆も怪しいとは思いつつも、それを言おうとすると悲しげで儚い色を浮かべる彼女に、突貫できる猛者はいなかった。
(くぅぅっ、収まりなさい、我が煩悩よっっ! 今、ボロを出したら全てが水の泡、耐えて、打ち勝て我が理性っ!)
(いくら隠そうとも抑えきれない変態の波動が漏れていますわ。私にはわかります。同類ですもの)
(どっちだ……!? ドッチだ!? 演技であるのならば、そのまま切り捨ててやるが、もしそうでなければ私が悪者になるだけだぞォ!!)
(うぅ……恥ずかしい)
(起きたら、記憶喪失だったって。でしたら、どうしてそこまで的確に魔力を抑えて、迷わずブレイブさんのところに行ったのでしょう。彼女の策略に決まっています。………これ、どうにかして利用できませんかね)
(うーん、ボクに何かできることは……)
(やめてよぉ〜、ヴィヴィア〜ン)
ブレイブは内心では泣きべそをかいていた。今までに何度も彼女を抱いたはずの彼ではあったのだが……。今の彼女は美しいを通り越して神々しささえあった。触れてはならない神聖なモノ。キレイなガワの中身は………、うん、言わないでおこう。
意図して妖艶さ色気の類を抑えている彼女は、無垢と純真の結晶のようで手を出すことが憚られた。
(ーーふふふふ。赤くなってる。ブレイブかわいい)
ヴィヴィアンは調子に乗ってさらにブレイブに擦り寄る。ヴィヴィアンの髪の香りは陽光の花の香りのようで、ふんわりとブレイブの鼻腔をくすぐった。
モジモジと体を揺らすブレイブ。
「えっと、ヴィヴィアン? 少し離れてもらってもいい、かな?」
ブレイブの絞り出すような声に、眉を八の字に可愛らしく歪めてヴィヴィアンは悲しげな顔を浮かべた。
「どうして、そのような無碍な事を仰るのでしょうか? ブレイブさまはわたくしの事がお嫌いなのでしょうか?」
「そ、そんなことは……なくて、むしろ好きだけど……」
目に見えてシドロモドロになっていくブレイブ。ーーーシャァァァッ!! ヴィヴィアンは心の中で盛大にガッツポーズをした。言質とったどぉー!
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