裏祭り・夜【福男 side 龍神神社】

本殿の裏手、物々しい様子の神職たちが集う。
夫であり、父親である男たちのそんな様子を妻と娘である巫女たちが呆れた顔や面白そうな顔で見ていた。
「こんなことしなくてよろしいのに」
「怪我はしないでくださいね」
「ウチの娘の夫になるのならば、これくらいは乗り越えて然るべきね」
白蛇、稲荷、ガンダルヴァ、アプサラス、シー・ビショップなどといった龍神様に仕える巫女たちが勢ぞろいしていた。

「呵呵呵。祭りとはこうあるべきよな。儂の前にお前様が現れた時のことを思い出すのう」
「ててうえが?」
「そうじゃ。お主の父上がここを駆け上ってきて現れよってな。儂をぺろりと食べてしもうたのじゃ」
「かかさまを食べちゃったの?」
幼子が目を丸くして驚いている。
「そうじゃそうじゃ。今思い出しても体が火照りおるわ」
呵呵大笑する龍神様の腕の中には幼い龍ちゃんが抱かれている。

「今宵はのう。もしかしたらお主の愛(う)いお方が現れよるかもしれんでな」
そこまで言ってから龍神様は自らの夫である宮司に目をやる。
「じゃが。そうならぬようにあの阿保たれは気張っておる。応援してやりや」
「ててうえ、がんばれー」
龍ちゃんは龍神様に言われるがままに宮司に声援を送った。


幼い龍の声援を受けた宮司のテンションはマックスに到達する。
今宵の福男をたどり着かせないために、神職たちがこれから放たれる。



「我らは己らに問う。汝ら何ぞや!!」
宮司が低く響く声で他の神職らに問い、神職らは応えを返す。

「我らは龍神神社、龍神神社の神職なり!!」
男たちの低い声が重なり、神社の裏手に力強く響く。
表の楽しげな喧騒はここには届かない。

「ならば龍神神社の神職よ。汝らに問う。汝らの後ろで待つものは何ぞや!!」
宮司の問いかけは事もなげに返される。

「妻と娘なり!!」
決意を滲ませ必至に身を置く彼らの咆哮。

「ならば龍神神社の神職よ。汝らに問う。汝らの前に来るものは何ぞや!!」
宮司が重ねられる問いも、鏡に映る己の姿のようにすぐさま反射される。

「かつての己で簒奪者なり!!」
空気が質量を増したかに思えるほどの重厚な気配が場に膨れ上がる。

「ならば!!。ならば神職らよ。汝ら何ぞや!!」
声を張り上げる宮司。彼はそのまま他の神職らの列に加わった。
彼は指揮官でも宮司でもない。彼は夫であり、父であり、一個の戦士である。
神職らは声を重ねてうち響かせる。

「我らは神職にして神職にあらず。我ら男にして男にあらず。夫にして夫にあらず。父にして父にあらず」
彼らの言葉に妻である巫女たちは顔をしかめ拳を握りしめ、娘である巫女たちは悲しそうな顔をしたり面白がったりした。

「我ら嫉妬なり、shit(シィット)の群れなり。
ただ伏して我らに結婚の許しを請う、ただ伏して請うだけの簒奪者を打ち倒す者なり。
闇夜で短刀を振るい娘につく悪い虫を打ち払う者なり。我ら保護者なり。娘の父なり」
そうして彼らは走り出す。闇濃く渦巻く裏手の森へ、娘の簒奪者を打ち倒すために。
走りながら涙をこらえて神職たちは声を揃える。

「時到らば、我ら持参金、娘に持たせ。
涙を飲んで、娘を送り届けるなり。
されどそれまで我ら徒党を組んで男を阻み、
隊伍を組みて方陣を布き、
一億七百四十万五千九百二十六の白濁の未来と合戦所望するなり。
娘が嫁ぐ日まで(ヴァージンロード、NO)!!」

誰も彼もが嬉々として、祭りに向かって突撃していく。
一体誰があの中で、父親の圧力の中で、あの中で結婚を認められると言うのだ。
きっと、娘たちの誰も彼もが喜々として関係のない男を掻っ攫っていくに違いない。
誰それ、の驚きの声の中で。
16/06/22 11:45更新 / ルピナス
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