宴が終わり、満天の星空の下で皆は雑魚寝をしていた。
ここに集まっているのはブレイブたちと今回生まれた魔物娘たちだけではなく、戦闘が終わったことを見て戻ってきた街の住人たちもいる。
もともとこの街には人間の方の割合が少なかったのだが、拡散した魔力の影響でもれなくめでたくすべての人間が魔物娘やインキュバスと化していた。
すでにバーダン周辺は明緑魔界と化している。
そんな中で宴を開こうものならば、一言で言えばひどかった。
万魔殿もかくやといった有様で、もともとのカップルはもちろん、新しくできたカップル、元夫婦で百合カップルになったものも、みんなギシアン音が絶えないのだった。
ブレイブたちも例にもれず、と言いたいところだが。
英雄様の取り合いになってしまい、それどころではなかった。
ロリカーラの無双乱舞に始まり、ヴェルメリオ親衛隊の鉄壁の防御。
抜け駆けしようとするヴィヴィアンをかつての仲間たちが捕まえて醜いキャットファイト。
結局、みんな疲れ果てて倒れ伏し泥のように眠ることになったのだった。
この中で唯一の得をしたのは、アンと白衣であることは言うまでもない。
◆
「綺麗だなぁ」
夜中に目を覚ましたブレイブが呟く。
彼の目には夜空の星々が写り込んでいる。
周りでは惨憺たる有様で眠る魔物娘たち。
今日は怖くて痛いこともあったけど、最後はみんな楽しそうでよかった。
あのお姉さんもみんなと仲良くできれば良かったのに。
ルチアの壮絶な最期を思い出してしまっては吹き飛ばすように頭をふるふると振る。
時折、流星が落ちる夜空を見上げていたブレイブだったが、夜風に当たり続けていて尿意を催した。
「うう、おしっこ」
ごちゃごちゃと眠る魔物娘たちを踏みつけないように気をつけながら森に入る。
「ふう」
用を足して戻ろうとするブレイブの耳に何かが風を切る音が聞こえてきた。
「何だろう」
そろそろと、音のなる方に近づいて行った。
森の中のちょっとした広場。
そこでヴェルメリオが一心不乱に槍を振っていた。
静かな森の中、風を切る槍の音、星明かりの下で清廉な音が静寂を切る。
彼女の槍捌きは見惚れるほどに流麗で澱みなく流れる清流のようだ。
無駄な力は入らず、流れるように続く。
宴の時はいたはずだが、いつからこうしていたのだろうか。
ひんやりとした夜の森の中、彼女の額には玉のような汗が浮いていた。
ブレイブは彼女の姿から目を放すことが出来ないでいた。
その姿は麗美で、強健で、しかし必至が滲んでいた。
「こんなところでどうしたのですか、ブレイブ」
ヴェルメリオの声にブレイブは軽く驚く。
「ヴェル姉さんこそ。気づいてたの?」
「ええ」
ブレイブが出て行くと、彼女は振るっていた槍を止めた。
「すごく綺麗でかっこよかったよ」
「そう、ですか」
ブレイブの賞賛に彼女は浮かない顔だ。
「そんな槍でもあなたを守ることが出来ず、痛い思いをさせてしまった」
ヴェルメリオの顔には悔恨が浮かんでいる。
「ぼ、僕なら大丈夫だよ」
ブレイブは手を振ってみせる。彼の傷は周りの娘たちのおかげで跡もなく消えている。
「ですが、私が許せない」
ヴェルメリオは歯を噛みしめる。
「ヴェル姉さん」
「呼び捨てにしてもらって構わない。あなたはもう、ただの子供じゃない」
「あれはみんなが力を貸してくれたから」
「そうですね。それでも、その力をまとめることが出来たのはあなただったからです。私はあなたを誇りに思いますよ。ブレイブ」
「でも」
「でも、などとは言わずに胸を張りなさい。あなたは立派な英雄だ。だから、あなたには呼び捨てにされたい」
彼女にしては珍しく、はにかむような声。
「う、うん。ヴェル」
「はい。ありがとう」
ヴェルメリオは柔らかい微笑みを浮かべる。
「この数日間で様々なことがありました。カーラと戦うだけの日々しか送っていなかった私が久方ぶりに人の姿をとりあなたたちと旅をした。こんなに楽しかった日々はもしかしたら初めてかもしれません」
もちろんカーラとの日々も楽しかったのですが。ヴェルメリオは付け加える。
「しかし、私は負けた。私ではその楽しい日々は守れなかった。最強と言われる種族とあろうものが情けない」
「ヴェル?」
「だから、ブレイブ。私はここで、さよならです」
「え?」
「本当はもう少し後にしようと思っていたのですが、今あなたの顔を見たことで決心しました。私はここから別行動をとらせていただきます」
「そんな、ヴェル。僕、ヴェルと離れたくないよ」
驚くブレイブをヴェルメリオは優しく抱きしめる。
「ごめんなさい。でも、決めたことです。行かせてください。そして、約束します。私はまたあなた達、ブレイブのところに帰ってきます」
「………」
「あなたたちを守れるくらいに強く
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