壮絶な最期を遂げたルチアの残骸が青空の下で座り込んでいた。
呆然とするブレイブたちの目の前でルチアの亡骸が淡く光り出す。
何事だと警戒するが、まだ彼らは動くことができない。
ブレイブたちが見つめる中、ルチアの体は光の粒子に変わって立ち上っていく。
引きちぎられた翼も、散らばった髪も、こぼれ落ちた血の雫も、皮も肉も骨も。
全てが淡く光りながら、空へと立ち上る。
それらは中空まで浮かび上がると止まって輝きを増した。
そして、命が生まれ出した。
光の一粒一粒が大きくなり人型を形成していく。
それはどんどんどんどん増えていって、天を埋め尽くすくらいに広がっていく。
誕生したのはエンジェル、フーリー。下級に位置する彼女たちだけではなくキューピッドやヴァルキリーもいる。さらにはデビルやデーモンまで。
ルチアの体だったものから様々な魔物娘たちが生まれた。
数万に及ぶ魔物娘たち。天使型と悪魔型の魔物娘たちがひしめき合う。
そして、すべての者たちが生まれ終わると、空いっぱいに広がる彼女達から一斉に歓声が上がった。
天地を震わせる喜びの大音声。
それぞれが思い思いにブレイブを讃え感謝の言葉を告げる。
ありがとう、ありがとう、ありがとう。
よくやってくれた。君こそ勇者だ。
いくつも投げかけられる思いと声にブレイブはなんだかこそばゆく、目にはじんわりと涙が浮かんでいた。
天から降り注ぐ暖かい光でヴェルメリオも目を開く。
彼女の傷は降り注がれた魔力で綺麗に塞がっていた。
目にした光景に驚きつつも彼女の口からは朗らかな笑い声がついて出た。
目元の涙を拭いながらその光景を誇らし気に見上げていたヴィヴィアンの耳に声が届く。
「おーい、ヴィヴィアン」
「ヴィーちゃーん」
「ヴィ〜っち」
彼女にかけられる幾つもの声。それは懐かしさを含む、どこかで聞いた声だった。
「えっ、あなたたちはまさか」
「そう。そのまさか。坊やと一緒にあの女をブッ飛ばしたと思ったらさ、この体になってたんだよ。俺が女になっちまうなんてなぁ」
カラカラと笑うヴァルキリー。
「私は元から女だけど、こんなちっちゃくなっちゃったー」
胸をさすりつつ嘆くデビル。
「ウチは満足や!」
胸を張って腰をくねらせるデーモン。
「本当は逆だったのにー」
デーモンをポカポカ叩くデビル。
「こんなこと、信じられない」
今までルチアに殺されたはずのヴィヴィアンのかつての仲間たち。
性別は魔物娘になったことでみんな女性になり体格も変わってしまったようだが、全員がヴィヴィアンの元に帰ってきて再び会うことができた。
拭ったはずの涙が溢れ出す。
「みんな、お帰りっ」
顔がぐしゃぐしゃになるのも構わずにヴィヴィアンは彼女たちと笑いあうのだった。
◆
「あれ、どおして私生きてるの?」
天界にある厳かな聖堂で彼女は目を覚ました。
私は確かに自分で自分の心臓を抉りだしたはず。それなのに心臓は胸の内で確かな鼓動を刻んでいる。
そこでルチアはふと違和感を感じた。
今まであったものがない。平たくなってしまった胸をポンポンと撫でる。
自分の手のひらを前に持ってきて、ちっちゃなお手手をグーパーする。
「なんっ、じゃこりゃあああああーーー!」
ルチアの悲鳴が聖堂に響き渡る。
「え、何々どういうこと!?、なんで私ちっちゃくなってるの?。これじゃ、あのガキよりも小さいじゃない」
幼女の声でまくし立てる。
「フザっ、けるなぁ!」
思わず自分が座っている石の台座を殴りつける。
ベキッ。
「いったぁぁ」
いつものようには石の台座は砕けずに、自分の拳の方から嫌な音がした。
真っ赤になってヒリヒリする拳に、ふーふーっと涙目になりながら息を吹きかける。
「石って叩いたら痛いものだったのね」
当たり前のことに今更気がつく。
今までの絶大な力も失って幼女の姿になってしまった自分が情けない。
「これからどうしたらいいのかしら」
ルチアの心に不安という長らく感じてこなかった感情が芽生える。
それと同時にじわっ、とこみ上げてくるものが。
「え、うそうそ。私泣いちゃうの。まさか精神まで体に引きずられているというの。ダメダメ。そんなヴィヴィアンみたいな」
自分が散々いたぶってきたリリムの顔が浮かぶ。浮かんで、浮かんで全身を思い出すと、惨めさが増してくる。
「ひぐっ、びぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ〜〜ん。うわぁ〜〜〜ん」
とうとう涙腺が決壊して泣いてしまう。
「ごべんなざ〜い。ゆるじで〜。びぇぇぇぇ〜〜〜ん」
顔を涙と鼻水と涎でぐしゃぐしゃにしながらルチアは泣き叫ぶ。
「わだじ、どうじだらいいの〜〜〜。うえええええ〜〜〜ん」
しばらくはその聖堂から、ピーピー泣く幼女の声が止むことはなかった。
◆
「あっ、ケルンさん」
お姉さん、
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