「カーラお姉ちゃん、嘘だよね。そんな、こんな。うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ブレイブが半狂乱になって叫ぶ。
鎧もぷるぷると震えている。
「まさか、カーラさん」
白衣は俯いて顔が見えない。
「はっは。なんとか殺せたとはいえ、私も消耗し過ぎてしまいました。もう逃げるくらいの力しか残っておりませんねぇ」
あくまで涼やかにザキルは語る。
「あなた、ただで逃げられるとお思いですか?」
白衣がザキルを睨みつける。
「ええ、もちろん。それでは逆にお聞きしますが、あなた方で私を倒せるとでも思っているのですか?」
白衣が黙る。
「そうでしょう。私はもう逃げるくらいの力しか残っておりませんが、逃げるだけならば容易い」
ザキルがほくそ笑む。
「それに、来ましたよ。絶望の運び手が」
みなが視線を向けた先には。
神々しい輝きを放つ8枚の翼を背負い、血塗られた瞳で眼下を睥睨する、天の女王と呼べるほどの存在感を放つ戦乙女がいた。
「なーんだか、いい感じに温まってるわねぇ」
ルチアがザキルの隣に並び立つ。
「そんな姿、久しぶりに見ましたよ。それほどまでに彼女は手強くなっていましたか?」
「ヴィヴィアンならぜーんぜん。これが私の武器だー、って格好つけてたけど。手応えなくてつまんなかった。最後にはぼろぼろ泣き出しちゃってさ。みっともないったらありゃしない」
ケラケラとルチアが笑う。
「それならばその姿は?」
「もう一匹いたドラゴン。ヴェルメリオってのが思ったよりも楽しめてね。王様を檻にに入れて閉じ込めちゃっててさ。なかなかやるのよ。6枚でも倒せたんだけど、粘りそうだったからもう8枚でなますにしてやったわ」
ブイ、とザキルに向かってピースをしてみせる。
「あの二人を相手にして無事だなんて」
白衣が驚愕の表情をみせる。
「無事じゃないわよー。ちょっち手が焦げたし、肋も持っていかれちゃった。もう治したけどねー」
ひらひらとルチアが手を振る。
「ヴィヴィアンとヴェル姉さんをどうしたの?」
「どうしたって、ほっといたわよ。死んだかどうか知ーらない。自分で確かめれば?。出来るもんならね」
ルチアのその言葉を受けてブレイブは立ち上がって走り出す。
「許さない。みんなを返せ!」
「駄目です、ブレイブさん!」
白衣も、アンも止めようとしたのだが、ブレイブを止めることはできなかった。
そんな、馬鹿な。
白衣は信じられなかった。いくら布の体だとはいえ、魔力を扱った一反木綿が止められないとは。
「わぁぁぁぁ!」
ブレイブがルチアに向かって手を振り回す。
「どっきゅーん」
しかし、ルチアが無造作に放った前蹴りで吹き飛ばされてしまう。いわゆるヤクザキックだ。
べしゃっ、とカーラだった血だまりにブレイブが投げ出される。
「うっ、ううっ」
ブレイブの瞳に涙が滲む。
「うふふ。勢いだけじゃどうにもならないのよ。お勉強になってよかったわね」
ルチアの無慈悲な声がブレイブ耳を苛んだ。
「で、あの血溜まりっって。もしかしてあの面倒くさそうな女剣士だったりするの?」
「そうですよ。強敵でしてね。私も8割がた削られました」
「うわダっサ。え、8割ってことはもう枝を打つだけですっからかんじゃない」
ルチアの言葉にピクリとザキルの体が震える。影が大きく揺らいだようにも見えた。
「そのことなのですが」
ザキルが懐から、何かを取り出した。
そこにあったのは。
「フザっけんじゃなわよ。何してくれてんの、あんた」
ルチアの拳がザキルの頭部を貫いて弾けさせる。
ぞりゅっ、という音とともにザキルがルチアから飛び退る。這い退るといった方が正しいだろうか。
ザキルが見せたのは、ミストルティンの枝。
それは真っ二つに折れていた。
「私の不手際であることは弁解しませんが、そもそもその要因となる彼女たちを引き寄せたのは、貴女である事は忘れないでいただきたいですね」
口だけを作り出して紡がれるザキルの言葉にルチアが唾を吐く。
忌々しそうに、その美貌を醜悪に歪める。
「それじゃあ、今回の神殺しは失敗ってことじゃない。これから天界に戻って別のを持ってくるにしても時間がかかりすぎる。それだけ時間がかかれば、向こうに手を打たれる。くそっ、くそっ、クソがぁぁぁっ!」
麗しい唇から汚い言葉が放たれる。
ルチアの怒気に空気が震えて瓦礫が吹き飛ぶ。ブレイブをたちは身が竦んで動けなくなっていた。
「あーもう。ウザい、ウザぁっ!」
ルチアが血走った目をブレイブたちに向ける。
ルチアの矛先を受け恐怖で体は震えて歯がカチカチと音を立てる。
「スパッ、と殺そうと思ってたけど。むしゃくしゃするから、やっぱりいつも通り嬲って殺そう。そうれがいい。生まれてきたことを後悔するくらい、死ぬことだけが希望だと思えるほどにっ!」
凶悪
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