15.兇刃の行方

「ははっ、息が上がってきたのではないですか」
ザキルの熾烈な攻撃にカーラの鎧が徐々に削られ傷が増えていく。
「何を馬鹿な」
カーラは言葉の上だけでも余裕を保とうとしていたが内心には焦りが広がっていっていた。

両手に握った大剣で降り注ぐ武器の嵐を弾いていくが数が多すぎる。
「背後がガラ空きですねぇ」
上下左右から繰り出されていた凶器の弾雨が背面にも加わる。
鞭の軌道が螺旋の渦を描いて走る。槌が脳天に振り下ろされる。鋸の歯もつ長剣が左右から迫る。
鉄球が、棍が、斧が、槍が、矢が。ありとあらゆる方角、角度から放たれていく。
苛烈で執拗なザキルの攻撃は絶え間なく、カーラに息つく暇さえ与えない。
カーラはそれらを弾き、いなし、叩き落す。対処できないものは致命傷だけは受けないようにして体で受ける。

実際の時間は短くとも熾烈な攻防によって時間の密度は高められていた。
いくら人間よりも強靱な体力と体格を持っているとはいえ、極限まで高められた緊張は精神力を削り限界は訪れる。

「がぁっ!」
低い射出点から放たれた矢がカーラの足に突き刺さった。カーラは思わず膝をついてしまう。
「やっと喘いでくれましたね。素晴らしく持ったとは思いますが、もう我慢するのも厳しいでしょう」
ザキルが大仰に手を広げて、カーラに言葉を投げかける。
「抵抗を止めてください。そうすれば楽に殺して差し上げます。もちろん彼らもすぐに後を追わせてあげましょう」
「何を馬鹿なことを」
汗を浮かべて肩で息をしながらも、カーラが諦めることはない。
「強情ですね。抵抗するというのならばより狙いやすくさせてただきましょう」
「ぐぁぁ」
カーラに刺さっていた矢が蠢いて形を変える。矢もザキルの体の一部だ。
矢は紐状になってカーラの手足を拘束する。ザキル本体の流体も加わってカーラを磔にする。

ザキルに捕らわれるという屈辱にカーラは憤る。
「貴様ぁ。放せぇぇ!」
「おお、怖い怖い。ルチアさんならばこれから嬲るのでしょうが、私はそんなことはしません。一思いにさっさと殺すことにしましょう。あなたの成長速度は危険だ」
ザキルの首から上が大剣に変化する。ジパングに伝わるとされる斬馬刀に似ている。繊細な操作は出来そうにないが叩き切り、切り潰すには適した形状だ。力と速度に任せてカーラを切り潰すつもりなのだろう。
「さあ。さよならです」
アーメン。
ザキルは斬馬刀を振り被る。

カーラは歯を噛み締めながら振り下ろされる大剣を睨みつける。
カーラの目前に鈍い刃が迫る。
もう処刑されるのを待つのみという状況でも、依然としてカーラの目から光は消えてはいなかった。

「はぁぁぁぁっ!」
カーラの気合いとともに鎧の形状が変わり、何百という棘が飛び出す。棘はザキルの拘束をズタズタに引きちぎった。
「何ぃ!?。だがもう遅いっ!」
ザキルはそのままカーラに斬馬刀を叩き込む。
カーラの兜が大剣に変化する。彼女は両手をあげる勢いそのままに柄をつかみ斬馬刀を受けて弾く。
ザキルは舌打ちを鳴らしながら再び武器を展開させる。カーラに何百、何千という武器の嵐が吹き荒ぶ。

カーラは大剣を二つに割って二刀で対応する。しかし、それでは先ほどと同じだ。だから今度は四刀。両足を覆う鎧の部分を変形させて四つの剣で対処する。傷ついた足は鎧で覆って鎧で動かす。
自ら動かしているという点では違うが、リビングアーマーをまとって戦うような要領だ。
頭部を再び覆った兜の先からも剣が伸びる。これで五刀。
「時間をかけすぎましたねぇ。ここまで成長させてしまうとは」
矢の一斉射撃。もはや雨ではなく滝のように降り注ぐそれをカーラは全て弾き切る。肩甲骨の辺りからは翼のようなブレードが左右に伸びている。
「もう完全に人間を止めましたか。私も人のことは言えませんが、なんと悍ましい姿でしょう」
ザキルの体の大半を費やして巨大な刃が形成される。地面と水平になったギロチン台。大質量のギロチンの刃がカーラに打ち出される。カーラはそれを飛び上がって避ける。
「残念、そこは死地です」
ギロチンに注意を向けさせた横でザキルは砲台を作り上げてカーラに照準を合わせていた。先ほどまで打ち出していた矢も全て回収して弾として詰め込んでいる。
「砕け散りなさい」
カーラに向けてギロチンにも負けない大質量の凶弾が打ち出された。
「お前がなぁぁ!」
カーラの背中から熱気が噴射されて加速し、落下速度をあげる。
背面を抜けた弾丸は背部の鎧を抉り取っていったが、カーラは脇目も振らずにザキルに降りる。
全身を覆う鎧をさらに変形させて巨大な三角錐の形でザキルに落ちる。

轟音を立てながら、ザキルを貫いてカーラは地面に降り立った。
衝突の衝撃でザキルの体の大半は吹き飛んでいる。
この体ならば死んでいることはない
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