「だーっ、もう、終わらねェ!」
深夜のとあるオフィス。深堀忠雄は憤慨していた。
「あのクソ上司、人に仕事を押しつけるだけ押しつけて帰りやがって。仕事が勝手に終わるとでも思ってんのか? ちげーよ! 俺がやってんだよ!」
ふがー、むがー、と憤るも、その声に応える者はおらず、暗くなったオフィスに光るパソコンの灯りが白々しい。頭を掻きむしり眼が血走っていれば、これが今日だけのことでないことは明白であった。
「しかも? なんだよ、今日の婚活コンパは外せないんだ? ぶぁーか! 外せない婚活コンパで当てた例がねーだろーが! フラれろッ! フラれて枕を濡らせッ! そしてお前の所為でフラれることも出来ない俺に謝れ。謝れーッ! ハーッ、ふはーッ!」
ひとしきり叫んだ後で肩で息をする。だが、いくら叫ぼうとも誰も来ないし仕事も片付かない。諦めたような打鍵音が、カタカタと空しく響きだす。
「うぅう……、フラれてもいいから合コン行きたい。合コン行って女の子と話したい。ぅうう……」
彼は哀しみに満ち満ちていた。
だからだろう。
“彼女”が顕れたのは。
がらっ!
と、彼の机の引き出しが突然に開いた。
「おぐぅッ!」
むろん、彼は机に向かっていた。
必然、その引き出しは彼の鳩尾(みぞおち)を抉った。
「おぅっ、おぅっ!」
突然の腹部への衝撃に、椅子から転がり落ちた忠雄は悶絶した。
それを“彼女”が無表情に近い顔で見下ろしていた。
「悪い子のところにはブギーが来るぞ」
ちょっと舌っ足らずで、それでいてどこか甘えたくなるような響き。
「おぅっ、おっ、ぉおおおお……だ、誰……」悶絶していた忠雄はそれだけを搾り出した。それから顔を上げれば、
――そこには青い顔の女がいた。
引き出し……青い……どら――それ以上はイケナイ。おそらく忠雄の中では著作権という緊急停止装置が働いたのだろう。――否、そうではなく、忠雄はただただ見惚れてしまったのだった。
まるでぬいぐるみのようにモコモコとした衣装に身を包んだ女。一見、道化を思わせるツギハギのパペット。その胸部はムチムチと盛り上がり、衣装の食い込んだ太腿もむっちむっち。肌の露出はそう多くないが、どうしてこうも扇情的であるものか。
忠雄は知らず息が荒くなっていた。隠すことも忘れて股間には大きなテント。今にも哀しみ(意味深)が溢れそうな膨らみ具合であった。
女はそんな忠雄の様子に、
「――悪い子だ」
無表情だった顔で、にまりと嗤った。
「…………ぉ、おぉお……」
その爛れた表情に忠雄の背はがたがたと震えた。腰が揺れて、そのようなことがあるのか知らないが、子種が濃縮されるような気がした。股間はギンギンに盛り上がり、睾丸が痛いほどに沸き立っているように感じる。
「悪い子♪ 悪い子見ーつけたー♪」
彼女はこれ以上愉しいことはないと言った様子で、ぬるり、ぬるりと引き出しから脚を引き抜いた。
「……よっ、と」
オフィスに降り立った青い女は、呆然と転がる忠雄に、覆い被さるようにして身を寄せた。
「ちょっ、ちょっ」
「悪い子は、ブギーに攫われるぞ
#10084;」
無表情だった彼女がニマニマと顔を寄せると、どうしてこうもクるのだろうか。背筋がぞくぞくとして、それだけで腰が跳ねそうになっていた。――否、それだけじゃない。彼女の甘い匂い、甘えたくなるような声音、爛れた蠱惑的な視線。……
吐息がかかるほどに顔を近づけられて、早鐘のような鼓動が鼓膜を震わせた。
「……わ、悪い子、って……はは、は……俺はもう、二十九だぞ?」
この場で言うことはそれじゃない。
わかってはいたがそれしか言えない。だって、深夜のオフィスの引き出しから、明らかに人じゃない女が顕れ、愉快そうに圧し掛かって来ているのだ。もはやどこからどう突っ込めばよいものか。……と、彼女は、
「え? 門限過ぎても帰らないのは悪い子」
きょとんとしていた。
――ウン、門限じゃなくて定時だけど、確かにそれは悪い子だ。
しかし、帰れないようにした上司とどっちが本当に悪い子か、という哲学的命題は置いておく。
「門限になっても帰らなくて、しくしく泣いてる可哀想な子はブギーのモノ」
「……い、いや、言ってる意味が……ほぅッ!」
甘すぎる感覚にのけ反れば、彼女の指が股間の小僧を撫でていた。
「ほら、泣いてない?」
……い、いや、泣いてるって言うか、泣かされそう(意味深)ってか……「はぅッ!」
先っぽを摘まむような指遣いに、先っぽからピュッと泣かされた。
「……えへ。やっぱり、泣いてた。よしよし、イイ子、イイ子。今からブギーの中で、いーっぱい、泣い
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