ぬロリひょんな嫁

嫁は夫の両親との同居を嫌がると聞くが、彼女の場合は違った。

コーヒーを啜りつつ幸成は、仲睦まじい息子夫婦に視線を向けた。
テーブルの向かい側では彼女が息子の頬についたパン屑を指で拭い、口に運んだところだった。恥ずかしがることなく微笑み合う若夫婦に、彼女が来てからと言うもの、ブラックでもコーヒーを飲んでいる気はしないな、と内心で苦笑してしまう。まるで甘ったるいカフェ・オ・レ。

食後に彼らが飲むものがそれだが、甘さに甘さを重ねてどうするのだと思う。
年甲斐もなく馬鹿なことを考える自分は、彼らの甘さと熱さに当てられているのかもしれない。
そのカフェ・オ・レを息子の啓介とその嫁に運んで来た幸成の妻、香奈美。

「ありがとう」「ありがとうなぁ」

息子夫婦の初々しい礼に、微笑ましげに目を細めていた。
嫁と姑の仲が良いことに越したことはないが、その視線は嫁に対するものではなく、本当の自分の娘に向けるものだ。
彼女みたいな娘が欲しかった、嫁に来てくれて良かった、などと臆面もなく言って可愛がるさまには、幸成は啓介と、男同士で顔を見合わせて肩を竦めたりもする。

彼女たちはこの前も二人でデパートへ服を買いに出かけ、ちょっとしたファッションショーを家で開かれた。若い嫁に付き合っているからか、最近の妻は若々しくなり、幸成もまるで新婚のときのようなトキメキを覚えてしまうことが多々あった。

しばらくご無沙汰だった夜の営みが再開され、毎日のように肌を重ねてさえいた。

若々しく甘い空気を醸す彼らに、自分たちも当てられてしまった。年甲斐もなく腰を振りーーとは言っても、そう言うほどまでにまだ幸成は年を取っているわけでもない、しかし最近の腰の疲れを思うと、年甲斐もなくーーとは思ってしまう。
しかし徐々にその疲れも次の日に残さなくはなってきている。
彼女だけでなく、自分も若返っているかのようだ。
調子に乗って二人目を作ってしまうかもしれない、とは少々危惧している。息子が嫁をもらったら次の子供をーーなどと、お盛んにもほどがある。

しかし倦怠期とはいかずとも、少々溝ができはじめていた自分たちの夫婦関係が、彼女が来てくれたことで燃え上がったのはたしかだ。
妻ではないが、彼女のような娘ができて良かった、とは幸成も思う。

マンションの窓からはキラキラと祝福のような陽光が差し込み、幸成と香奈美、そして啓介とゆらがともにテーブルについた、二世帯の良好な朝食の風景を照らしていた。
その嫁であるゆらは、暖かな日差しの中で、ニィーーと。まるで夜に咲く婀娜華のように、口元をほころばせていた。

「「行って来ます」」
「「行ってらっしゃい」」

お互いの嫁に見送られ、父子は家を出た。

「啓介、新婚なのにいつもいっしょにいられなくって寂しいとは思うが、男ならちゃんと外でも頑張らないとな」

「うん。大丈夫、僕ちゃんと勉強がんばるから」

素直に頷く息子に、幸成は満足そうに頷く。
彼女とともに暮らすようになってから、妻だけではなく息子とも距離が縮まった気がした。息子とも仲が悪いと言うことはなかったが、妻ともども、最近は仕事が忙しくてナカナカ話す機会もなかった。それに正直、何を話せばいいのか、話しかけあぐねていた部分もあったのだ。
それが今やこうしてーー行き先は違うがーー、朝はともに出勤するようになった。

マンションのエントランスを出て、幸成は啓介に別れを告げて駅へ向かう。彼は、息子が元気よくランドセルをゆらして集団通学の待ち合わせ場所へ向かうのに、目を細めていた。



「さ、ゆらちゃん、男どもが出かけたから、パパッと家事を済ませてワイドショーでも見ましょう。いいお煎餅もらったの」

「ええなぁ。ウチおせんべ好きやで。かか様、お手伝いさせてもらいます」

はんなりと舌ったらずな口調に、香奈美は頬が緩むのが止められない。おしゃまで可愛らしく、健気にお手伝いをこなす彼女に、こんな娘が欲しかった、息子の嫁は理想の嫁だとまで思う。

香奈美が洗った食器に、隣で小さな手が、まるで花を摘むかのように可愛らしくひらめいた。その様子に同性でも見とれてしまう。その姑の視線に気づいた彼女はニヘ、と笑った。

「かか様、なにか?」
「なんでもない、なんでもないのよゆらちゃん」

慌てて取り繕う姑だが、スマホで撮影してイ◯スタに上げようか本気で迷う。ウチの娘(嫁)が可愛すぎるんだがどうしたらいいんでしょうか、とまるでネット小説のタイトルのような文面が浮かんだ。
しかし、どうしてだか実際にそれをヤる気にはなれなかった。
彼女に手伝ってもらった料理はドシドシイ◯スタにアップするのだが、彼女自身を写真に撮ろうとすると、その気持ちはどうにも、ぬらりとドジョウのように身体をくねらせて消えてしまう。
たぶん、
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