草木も眠るウシミツアワー。
魔円(まえん)を描く金色の月が、猫の目のように瞳孔を細くしていた。否、月を切り取る影一条。それはなまめかしい曲線を描いていた。そのシルエットは、まぎれもない女のものであった。
とある豪邸の屋根で、慄然と佇み内部の様子を伺っているのはクノイチ、名を月根あやと言った。
忍者装束に身を包んでいるが、どうしてその服が破けないかと不思議に思うほどの胸の隆起。尻も大きく膨らみ、腰が花瓶のようにくびれている。むっちりとした太ももに、淫魔の尾が巻きついていた。
男であれば見ただけで陶然としてしまうような、肉惑的な肢体である。
面ぽうを着けているが、布の隙間から覗く引っ詰められた鬢(びん)の毛艶やかに、夜闇よりも深く濡れた眼茫(がんぼう)は、それだけでウットリしてしまう魅惑を秘めていた。
彼女は面ぽうをの下で、チロリと赤い唇を濡らした。
彼女はこの屋敷を狙っていた。
彼女は盗っ人。だが自身は義賊であると目していた。
彼女が盗みに入るのは、横領、汚職、悪徳経営、悪行によって溜め込んだ輩からだけである。隠し金庫、隠し天袋。どこに金を隠していようが、どのような厳重な警備だろうが、容易く彼女は忍び込み、盗みを完遂する。
庭に防犯カメラあれば別の画像を流し、赤外線センサーあればしなやかな肢体で掻い潜る。もっとも、その際には晒しで胸も尻も潰さなくてはならないのが、チト窮屈でいけない。
が、ドーベルマンが放たれていようが軽く手なづけ、彼女の前では障子紙を破るよりも軽い。
一番気を揉むのは、標的(ターゲット)が悪党であるということの、確証を持つことだろうか。まずは秘書として忍び込み、色気の手練手管で情報を引き出す。だが当然、褥を共にすることはない。
盗み出した金品は、孤児院などに寄付をしている。時折ランドセルなどにして送る際には、差出人を足長お姉さんとしている。
間違ってはいない。
しかしおっぱいデカお姉さんとか、お尻デカお姉さんなどと言う案も間違ってはいないのだが、別のクノイチから止められた。
間違ってはいない。
だがら誠に僭越ながら、送られた小さな男の子たちが、足長お姉さんありがとうと言っているのを、むっちりと乳房を天井裏に押し付けながら聞いて、無柳を慰めるに留めている。
大丈夫、涎は面ぽうで押し留めている。
これまで狙った獲物は逃さない。
仕事遂行率100%の義賊クノイチである。
だが、
今現在彼女は懊悩するに足る、のっぴきならない懸念を抱えていた。
彼女の正体が、なんと看破されたのである。
「なぜ私の正体を暴けたか、問いたださなくては……」
彼女は決意を秘めた瞳を月影に踊らせると、彼の眠る寝室へ、なやましい肢体をくねらせる。
ーーそれは先日のことだった。
あやはある代議士の秘書として、その汚職の証拠を掴もうとしていた。そいつは好色な狸親父で、ふとした拍子に体を触ろうとしてくるのだが、あやは上手くかわしていた。
そう言う輩の要望に答えず、どうして秘書でい続けられるのか、と言うことであるが、そこはクノイチ、かわし方が上手いのである。
伸ばした手をピシャリと怜悧に払われると興奮する奴にはそうし、蝶のようにひらひらと色気の鱗粉を振りまいて、手が伸びてくればひらひらとかわす、捕まえられそうで捕まえられない丁度良い塩梅。
明確に拒絶せず、かと言ってふと手に入れられそうな素振りを見せる。
ただでさえあやがその美貌で、片目を瞑ってみせようものならば、この自分の好きにできない女はいらんと思いかけていた傲慢な男でも、でへへと鼻の下を伸ばしてしまう。
まあもっとも、傲慢な男であればどうにか自分のものにしようと躍起になるだろうから、そこはケースバイケースである。
そんな具合で尻に伸びてくる手を、絶妙にかわしていれば、挨拶回りで訪れたこの家で、
「あ、クノイチだ」
と言う声を聞いたのである。
ビックリした。
天地が返ったと言っても良い。
だが彼女は平静を装い、その相手を見遣った。
その相手が、今彼女の前であどけない寝息を立てているのである。
彼女は緩みそうになる口元、垂れそうになる涎を我慢して、凝(ジ)っと見た。
炯(けい)と輝く眸(ひとみ)が、鬼火のようにゆれる。
子供ーーで、あった。
年の頃はようよう9、10歳と言ったところか。
しどけなくベッドで眠る彼の横に、おっぱいデカお姉さんーー足長お姉さんことクノイチ月根あやが立った。屹然とした様子は凄艶として惚れ惚れするものであったが、年端もいかない少年が無防備に眠る姿を魔物娘が瞳を爛々とさせているーーコワイ。
誰も逃げてと言える者はいなく、すぅすぅと穏やかな寝息に彼女は豊満な乳を抱いて身をよじった。
ぎぃ、
とベッドを軋ませて、彼女は少年のベッドに身を這わせて行く。忍び寄
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