彼女の食事事情

「いただきます」と俺は云って、トーストを口に運ぶ。
ザックリと小気味のいい音と食感に、中はふわふわのパン生地。美味い。新型のトースト機の性能が良いのはもちろん、ウチの蜜もたまらない。甘い、だけじゃなくって、濃い。そんなんじゃあ伝わらないだろうからもう少し云えば、まるで花畑を一つギュッと濃縮したかのようなコクと深みと華やかさ。口に含めばそいつが一気に広がる。

味の玉手箱ならぬ、味のお花畑やー、とウチの商品を宣伝しておくけれども、俺が朝食を美味いと感じられるのは、もちろんウチの商品のおかげでもあるのだけれど、一番は、目の前でふふふ、と穏やかに笑っていてくれる、妻でパピヨンのみゆきちゃんのおかげ。

恋をすると世界がピンク色に見えると云うけれども、愛するとそこはお花畑に見える。
パピヨン補正は多分にかかっているかもしれないけれど。

と、幸せな朝食タイムを堪能する俺は、彼女に声をかけた。

「みゆきちゃん、みゆきちゃんの食事はいつも蜜だけで大丈夫なの?」
パピヨンである彼女は、少量の蜜しか口にしない。
それであのふかふかムチムチおっぱいが保たれているなんて信じられないけれども、それにムチムチの太腿やぷりぷりのお尻だって。

俺がトーストをかじりつつ見ていれば、
「うん、大丈夫だよ。パピヨンの食事は少しの蜜だけで十分なの」
彼女はふんわりとそう云う。しかし、ちょっとだけ照れたようにして、

「でも、蜜以外にも食べたいものはあるの、しかも、その味を知っちゃってから私、ちょっとお腹が空くようになっちゃって……」
「へぇ、生態を超えて食べたくなるものって何?」

そう云うと、彼女はちょっとビックリした貌を見せた。
あれ、俺なんか変なこと云ったか?
しかもその貌は、「なんでわからないの?」と云う貌だ。
うーん、と考えて、ピコンと気がついた。どこがピコンとなったのかはお察し願いたい。

「もしかして、俺?」自分を指差しながら云う。

と、彼女はコクンと可愛らしく頷いて、ペロリと真っ赤な舌で唇を舐めた。

「……………」めちゃくちゃゾワリとした。

でも、可愛い嫁がご所望なら、朝から致すのだって吝かではない。
「みゆきちゃん、飲む?」
と尋ねれば、
「ほ、欲しい……。でも、お仕事あるから」
彼女は心底残念そうにしていた。
「ま、そうだよね」
俺たちは二人揃って残念な息を吐く。

/

「いやー、魔物娘ってすごいっすねー、目が覚めたら朝勃ちがヌかれる寸前なんすよー」
なんて、社員が話しているのが聞こえてきた。社内の食堂で下世話な話だけれども、性に貪欲な魔物娘の夫なら仕方がない。
夫婦円満の秘訣は、奥さんに満足してもらうことだ。それが魔物娘と来れば、その対象が夜の営みになるのはもちろんのこと。しかも先ずはこっちが満足させてもらえて、それで向こうも満足してくれるって云うんだから、魔物娘ってサイコーだった。

もちろんウチのみゆきちゃんだって。
昨日の夜もすごかった。それに、毎回扇情的な下着って……。つけた方がエロい下着って、考えた奴って天才だなってつくづく思う。

と、
「社長もパピヨンって云いますけど、魔物娘なんすから、もう朝からすごいんすよねー?」彼は俺に話を振ってきた。「あんな可愛い貌してても、魔物娘は魔物娘なんすからー」
ヘラっと笑う彼だったけれども、そう云われて、俺はハタと固まる。
すると、相手も固まっていた。
「え、まさか……」
「いやいや」俺は相手の慌てた声に自分も慌てる。「ちゃんとヤることはヤってるよ。夜は」
「「「…………」」」

おいおい皆、なんだよその沈黙は……。

「それ、結構我慢してんじゃないんすか?」
「パピヨンって、魔物娘だけれど、自分からはガツガツ行かないって聞いてますよ」
「旦那さんが寝てる時には手を出さない、とか決めてるんじゃないのかなぁ……」

彼らの言葉に、俺は愕然としてしまった。
「俺、みゆきちゃんに我慢させてたのか……」

「大丈夫ですよ」社員の一人が言ってくれる。「別に嫌われてるわけじゃないんですから」
「そうっすよー。我慢しなくてして良いよー、エッチなことされると俺も喜ぶからして欲しいなー、とか。お早うのフェラや合体をお願いします、とか。ストレートに伝えれば大丈夫だと思いますよー」
ヘラっとする彼に、確かにその通りだと思う。

「わかったよ。ありがとう。じゃあ、みゆきちゃんにそう云おうと思う」
「お役に立てて良かったっすー」
二ヘラっと軽薄そうな彼だけれども、魔物娘の夫としては先輩として頼りになるようだった。
と、
「でも旦那さん、社長のことみゆきちゃんって呼んでるんすねー、可愛い社長にはぴったりだ。あ、もちろん俺には嫁がいるんで狙ってないっ
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