竹筒から、青白い燐光をまとった、何かが飛び出してきた。
“それ”は、燐光を纏っているのではなかった。そのもの自体が、青白い炎だった。“それ”は――情欲の炎。
目を見開く俺とお妙に、その炎は淫らな顔で微笑んできた。
その炎は裸の少女の形をしていた。頭には狐の耳、尻には狐の尾。その顔はお稲に似ていたが、お妙の顔でもあった。
「紹介するわぁ、この子がウチの娘で、狐火云うんよ。名前はまだない。この竹筒ん中におって、ウチが選んだ男に精をもらって育ててもらって、それから――」
ツィ、とお稲はお妙を見た。
ニィ、と狐の顔が嗤う。
狐火も笑っていた。その顔は、情欲にただれていた。
――人間やのうなっても、構へんな?
お稲に最初に云われた言葉を思い出した。
まさか……、
「待て、止めろ」
俺は声を張り上げる。しかし、
「止めへん。コンコン」
狐が鳴いたと思えば、狐火はお妙に跳びかかっていた。
「ぁ、ァあ……」
青白い炎が、彼女の肌を焼いていた。俺は急いで跳び起きて、お妙から狐火を引き剥がそうとした。しかし、形のない炎に触れられるわけもなく、お妙は、狐火に、全身を巻かれ、焼かれていた。
「お妙ぇえええ!」俺は叫び、涙目でお稲を睨みつける「お稲、何でこんな、酷いことを……」
「どこが酷いのん? ウチは約束を守ってもろとるだけや」
悪びれることのない彼女に、俺は愕然としていた。
いくら優しくしてくれるように見えても、彼女は狐だ。人間ではない。
こうして俺たちを弄んで、自分の娘である狐火とやらに、お妙を食わせるために近づいたのだ。
もう取り戻せない後悔が、俺の身体も焼いていた。
涙が零れていた。
お稲が許せなかった。
そして何より、このままお妙を失ってしまうことが、何よりも悲しかった。
「お妙、俺はお前が好きだ。愛してる。お前が切ないというのだったら、何度でも抱いてやる。だから、死ぬな。狐の妖術になんて負けるな。俺は、お前を失ったら、寂しくて死んでしまう」
そう言って抱きしめた。
「んふ、あんたを選んだウチの目に間違いはなかったなぁ。安心しぃ、熨斗つけて返す、云うたろ? おキツネさまは、嘘云わへん」
狐の声が聞こえたと思うと、お妙は、その身体に狐火を宿して死んでいた。
そう、死んでいたのだ。
人間としては――。
「兄ちゃん」
「お妙……」
虚ろな目をした彼女は、ドンと俺を突き飛ばしてきた。
「何を……」
まさか、彼女は狐火に乗っ取られてしまったのか。そう思ったが、
「安心しぃ、お妙はんはお妙はんのままや、狐火に乗っ取られた云うことはあらへん。ただ、ちぃと欲望に素直で、貪欲になっとるだけや」
やはり心が読めているようなことを、狐は言ってくる。
「兄ちゃん……」
「お妙……」
お妙は俯いて座った眼のまま、俺の上に跨って来た。その股からは、俺の白濁が零れている。そうして、彼女に重なるように、青い狐火が揺らめいていた。頭には狐の耳、尻には狐の尾。炎は陽炎のようにそれらを象っていた。
俺たちは視線を絡ませた。
「兄ちゃんの、バカヤロー」
「え……?」
ズプッ。
「うぐぅ」
「んぅ、ぅ……」
腰を下ろしたお妙は、俺の摩羅を、根元まで飲み込んでいた。そうして腰を振りだした。
「一回だけで満足出来るわけないでしょ。わたッ、しがッ、今までどれだけ我慢したと思ってるの! この朴念仁、奥手、ヘタレ、妹泣かせッ」
「え、え、いや、待て、うぅ、あ……。罵倒するか、腰を振るか、どっちかにしろ!」
暴力的に与えられる快楽に翻弄されながら、俺は俺は叫んでいた。狐火は彼女を焼いたのではないのか、彼女の今の姿は何なのか、そうしたことを疑問には思うが、しかし、彼女の腰の動きに、考えるこは出来なかった。
「やだ、どっちもする。私が今までどれだけ待ってたかわかってるの? 私のこと好きなくせに、ぜんぜん手を出してこなくて」
「いや、だってお前……うぐっ、お前は妹で……」
「血がつながってないこと知ってたでしょ」
「この関係を壊したくなくて……」
「壊したくないって、壊れるわけないでしょ。兄だったら妹の気持ちくらい、血がつながってなくてもわかってよ」
「無理を云うな、と云うか、腰を振るのを一度止めろ……ッ」
「やだ、やめない。孕むまで搾る。お稲さんを連れてきた時、私がどんなに悲しかったか、思い知らせてやる」
「孕むって、お前……やめ、ッ、出るッ……」
「あぁ……は……来たァ、二回めェッ」
元の彼女が帰って来ていた。
今まで病で気が弱ってしおらしい妹の皮を被っていたのだが、狐火の炎はそれを焼き尽くしてしまったようだ
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