六、

 竹筒から、青白い燐光をまとった、何かが飛び出してきた。

“それ”は、燐光を纏っているのではなかった。そのもの自体が、青白い炎だった。“それ”は――情欲の炎。

 目を見開く俺とお妙に、その炎は淫らな顔で微笑んできた。

 その炎は裸の少女の形をしていた。頭には狐の耳、尻には狐の尾。その顔はお稲に似ていたが、お妙の顔でもあった。

「紹介するわぁ、この子がウチの娘で、狐火云うんよ。名前はまだない。この竹筒ん中におって、ウチが選んだ男に精をもらって育ててもらって、それから――」

 ツィ、とお稲はお妙を見た。

 ニィ、と狐の顔が嗤う。

 狐火も笑っていた。その顔は、情欲にただれていた。


 ――人間やのうなっても、構へんな?


 お稲に最初に云われた言葉を思い出した。

 まさか……、

「待て、止めろ」

 俺は声を張り上げる。しかし、

「止めへん。コンコン」

 狐が鳴いたと思えば、狐火はお妙に跳びかかっていた。

「ぁ、ァあ……」

 青白い炎が、彼女の肌を焼いていた。俺は急いで跳び起きて、お妙から狐火を引き剥がそうとした。しかし、形のない炎に触れられるわけもなく、お妙は、狐火に、全身を巻かれ、焼かれていた。

「お妙ぇえええ!」俺は叫び、涙目でお稲を睨みつける「お稲、何でこんな、酷いことを……」

「どこが酷いのん? ウチは約束を守ってもろとるだけや」

 悪びれることのない彼女に、俺は愕然としていた。

 いくら優しくしてくれるように見えても、彼女は狐だ。人間ではない。
 こうして俺たちを弄んで、自分の娘である狐火とやらに、お妙を食わせるために近づいたのだ。

 もう取り戻せない後悔が、俺の身体も焼いていた。

 涙が零れていた。

 お稲が許せなかった。

 そして何より、このままお妙を失ってしまうことが、何よりも悲しかった。

「お妙、俺はお前が好きだ。愛してる。お前が切ないというのだったら、何度でも抱いてやる。だから、死ぬな。狐の妖術になんて負けるな。俺は、お前を失ったら、寂しくて死んでしまう」

 そう言って抱きしめた。

「んふ、あんたを選んだウチの目に間違いはなかったなぁ。安心しぃ、熨斗つけて返す、云うたろ? おキツネさまは、嘘云わへん」

 狐の声が聞こえたと思うと、お妙は、その身体に狐火を宿して死んでいた。

 そう、死んでいたのだ。

 人間としては――。

「兄ちゃん」
「お妙……」

 虚ろな目をした彼女は、ドンと俺を突き飛ばしてきた。

「何を……」

 まさか、彼女は狐火に乗っ取られてしまったのか。そう思ったが、

「安心しぃ、お妙はんはお妙はんのままや、狐火に乗っ取られた云うことはあらへん。ただ、ちぃと欲望に素直で、貪欲になっとるだけや」

 やはり心が読めているようなことを、狐は言ってくる。

「兄ちゃん……」

「お妙……」

 お妙は俯いて座った眼のまま、俺の上に跨って来た。その股からは、俺の白濁が零れている。そうして、彼女に重なるように、青い狐火が揺らめいていた。頭には狐の耳、尻には狐の尾。炎は陽炎のようにそれらを象っていた。
 俺たちは視線を絡ませた。

「兄ちゃんの、バカヤロー」

「え……?」

 ズプッ。

「うぐぅ」

「んぅ、ぅ……」

 腰を下ろしたお妙は、俺の摩羅を、根元まで飲み込んでいた。そうして腰を振りだした。

「一回だけで満足出来るわけないでしょ。わたッ、しがッ、今までどれだけ我慢したと思ってるの! この朴念仁、奥手、ヘタレ、妹泣かせッ」

「え、え、いや、待て、うぅ、あ……。罵倒するか、腰を振るか、どっちかにしろ!」

 暴力的に与えられる快楽に翻弄されながら、俺は俺は叫んでいた。狐火は彼女を焼いたのではないのか、彼女の今の姿は何なのか、そうしたことを疑問には思うが、しかし、彼女の腰の動きに、考えるこは出来なかった。

「やだ、どっちもする。私が今までどれだけ待ってたかわかってるの? 私のこと好きなくせに、ぜんぜん手を出してこなくて」

「いや、だってお前……うぐっ、お前は妹で……」

「血がつながってないこと知ってたでしょ」

「この関係を壊したくなくて……」

「壊したくないって、壊れるわけないでしょ。兄だったら妹の気持ちくらい、血がつながってなくてもわかってよ」

「無理を云うな、と云うか、腰を振るのを一度止めろ……ッ」

「やだ、やめない。孕むまで搾る。お稲さんを連れてきた時、私がどんなに悲しかったか、思い知らせてやる」

「孕むって、お前……やめ、ッ、出るッ……」

「あぁ……は……来たァ、二回めェッ」

 元の彼女が帰って来ていた。

 今まで病で気が弱ってしおらしい妹の皮を被っていたのだが、狐火の炎はそれを焼き尽くしてしまったようだ
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