かまいたちの災難

ひゅうひゅうと風が吹いていました。
これは……、死ぬのにいい日です!
……ではありませんでした。
コホン、殿方を押し倒すのに絶好の日和です!
私は意中の疾風(はやて)くんを転ばせるべく、彼が来るはずの通学路で待っていました。私は、何を隠そうかまいたちです。かまちたち三姉妹の長女・嵐。人呼んで、力の嵐です。私の風は圧が強いことに定評があるのです。エヘン。
それで彼を転ばせて、まずはお友達から始めるのです!

……え? かまいたちだったらすっ転ばせてそのままのしかかって即・雄・犯! ですって!?
な、ななななな、何を言っているのですか!
そそそそそ、そんなふしだらな事!
武士の血を引く東風堂の娘がそんな破廉恥な事をすぐに出来るわけないではないですか……いえ、もちろん出来るのならしたいですよ、でもでも、そんな事はいくら魔物娘と言えども恥ずかしくて……、って、あーッ!

……疾風くんです。
よよよ、良しッ!
と、私は意を決します。彼にお友達になってもらうために、そうしていずれは夫になっていただくために……、良しッ、頑張るんですよ、嵐!
空に浮かんだ三人のお母様たちに私は微笑み返します(注:お母様たちはちゃんと生きています)。
さて、私は電柱の陰に隠れて、彼が通り過ぎ……、その後から彼の背中に照準を合わせて風を放とうとします。

照準を合わせて指パッチン、照準を合わせて指パッチン。
私は友人から聞いた心を落ち着けるおまじないを唱えつつ、彼の背中を狙います。
え、それはむしろ逆効果なおまじない?
あはは、そんな事あるわけないじゃないですか。だって、教えてくれたのはバフォちゃんですよ。

良しッ、今ですッ!
私は力一杯指パッチンをします。
ビベシィン!
「あっ、しまっ、強すぎ……、きゃああああああ!」

私の風は勢い余って私を吹き飛ばしました。
「あいててて……」
私は尻餅をついてしまいました。
「だ、大丈夫?」
「は、はい、って疾風くん!?」
「うん、君は……、嵐さんだよね」

はぅっ!
心臓が口から飛び出そうになるというのはこういう事を言うのですね。
彼に名前を覚えてもらえていた、名前を呼んでももらえた。私、もうここで死んでもいいかもしれません。
しかし、感動に打ち震えている私の前で、彼はどうしてか気まずそうに目をそらします。一体どうしたのでしょうか……。
まさか!
彼は私を見てドキドキしてくれているという事でしょうか!?
それなら嬉しすぎます!

と、私が胸を高鳴らせていると、
「えっと……、嵐さん、その……、見えて……」
疾風くんはそう言いました。
見えてって、何が……、と私は気がつきます。私が恐る恐る視線を下げると、スカートの中身があらわになっていました。武家の娘は黙って白パン。
見せてんのよ、なんて言えるはずもなく……。

「いやぁあああ!」
「ご、ごめん! 見るつもりはなかったんだけど……」
謝ってくれる疾風くんには目もくれず、私は顔を真っ赤にして走り出します。
「手篭めにされたぁあああ! お嫁に行けませーん、責任とって夫になってくださーい!」
「ちょっ嵐さん!? 何人聞きの悪い事を言って、というか最後なんて言いました!? よっ、喜んで!?」
後ろで疾風くんが何か言っているようですが、私の耳に届くはずがありません。

力の長女は見事玉砕して、彼から逃げていくのでした。



「はっはっは、情けないですね姉上」
「ちょっとつむじ、そういう言い方は酷いのじゃないかしら」
「はっはっは、すみません。はっ、やっ、とぉ!」

私は庭で木刀の素振りをする次女のつむじに今日の出来事を話していました。彼女は剣術家で、日頃の鍛錬に余念がありません。私が力の長女だとするならば、彼女は速さの次女。
今宵も彼女の剣跡は、夜風を冴え冴えと切り裂きます。
ちなみに私がたしなむのは合気道で……。相手に気を合わせて柔よく剛を制す。だと言うのに力の長女を名乗るとは、私が未熟な証拠でもあります。

頬を膨らませて私が彼女を見ていると、つむじはスラリとした流し目を寄越してきます。艶やかな黒髪を後ろ頭で結び、背中の半ばまで垂れています。顔立ちは凛々しく背も高く、まさしく女SAMURAI。女の私でも惚れ惚れとしてしまうほどです。そのおっぱいはサラシで潰していますが、ハリのある良いものをお持ちです。
ちなみに私はタレ気味の目に、自分で言うのもなんですが、柔和なタイプの美人です。前髪ぱっつんの黒髪ロング。胸の大きさは力の長女として負けてはいません。柔らかいですが、圧はナニするに十分です。

「しかし姉上も悪いのでは? かまいたちたる者、意中の男が出来たら三姉妹全員で事に当たる
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4 5 6..11]
[7]TOP
[0]投票 [*]感想
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33