「ただいまー」と俺が帰宅すれば、室内は真っ暗だった。
いつもだったらまるで子犬ように駆け寄ってくる彼女の返事がないことに、俺は違和感を覚える。
「おーい、百合根(ゆりね)ー」
俺は彼女の名前を呼びつつ、電気をつける。しかし、彼女はリビングにも台所にもいない。どうしたんだと思いつつ寝室の電気をつけると、彼女はいた。
「こんなところに居たのか」
俺の最愛の妻である百合根。彼女は何を隠そう、魔物娘だった。
科学万能のこの現代に、突如異世界からやって来て存在を表明した魔物娘たち。当然皆驚き、困惑したが、男たちの強い世論に押されて(彼女たちの強さと美容の秘訣を聞いた女たちの世論も加わって)、めでたく人類とともに暮らす住民として定着した。彼女はその魔物娘の一人で、マンドラゴラという種族である。
俺が彼女に出会ってしまった(引っこ抜いた)のが早かったせいで、外見は○学生(○にはあなたの好きな単語をお入れください)にしか見えない。
その彼女は毛布を頭からすっぽりと被って、ベットの上に座っていた。顔は出しているらしく、頭の花が、後ろから見えるくらいにははみ出している。彼女を見つけた俺はホッとして、声をかける。
「どうしたんだよ。家の電気も全部つけないで。まさか誰かに攫われたんじゃないか、と心配したんだぞ」
彼女の容姿は可愛らしいもので、不審者に声をかけられたことがある。とは言っても、彼女はマンドラゴラ悲鳴拳の使い手で、触れた対象に悲鳴の振動を伝え、悶絶失神、射精させるという技の持ち主でもある。
「私は体のどの部位からでも悲鳴を放てる。それが極めるということだ」
と、不審者に触られた肩を払いつつ、(社会的に)殺した相手には目もくれなかった。
どこの極みの達人だ、と言いたくなるような彼女だから、俺は”そういった事に”心配はしていなかったのだが……、彼女の前に回り込んだ俺は、息を飲んだ。
彼女の顔には泣きはらしたような跡があった。
「りょうくん……」彼女は弱々しく俺を見上げると、これ以上悲しいことはないといった顔で、「ごめんね、私、汚されちゃった」と言った。
汚された。
俺は、彼女の言っていることを理解するまでに時間がかかった。
汚されたとはどういうことだろう。
彼女にはマンドラゴラ悲鳴拳がある。そんじょそこらの男が彼女を好きにできるわけがない。
汚されたとは、きっと、泥水を飲むほうがマシな侮辱をされたとか、そう言うことかもしれない。
彼女の弱々しく打ちひしがれた様子から、最悪のことを感じ取ってはいたが、俺は現実を認めたくなくて、必死で考えをずらそうとしていた。
「ごめんね……ごめんね……。私も必死で抵抗したんだけど、あいつら、みんなで寄ってたかって……。嫌って言ってるのに、ぶっかけて……私の穴という穴から……、もう、やだよね。こんな汚れた彼女なんて……」
彼女の瞳は真っ赤で、その瞳からは大粒の涙が溢れていた。
俺は……、自分が恥ずかしくなった。彼女をそっと抱きしめる。ビクリと体を震わせた彼女は、それでも、俺に身を委ねてくれた。
「あったかい……」
彼女はすがりつくように俺の胸に顔を埋めてくる。毛布を被っていたからか、彼女の体は微熱を持っていた。
「相手はどうしたんだ? 相手がどこの誰だか分かってるのか?」
怒りを押し殺す俺の問いかけに、彼女はか細く震える。「分かってるやつと、分かってない奴がいる。あいつら、私を辱しめたって言うのに、そこに居座って、堂々としてて……。うぅ〜っ」
「悪い。辛ければ無理に話すことはない。だけど、俺がそいつらを……」
俺が暗い決意を固めたことを、彼女は察したのだろう。涙の止まらない瞳を俺の胸に押し付けてきた。
「だめ、それじゃありょうくんが犯罪者になってしまう」
「犯罪者って……犯罪者はそいつらの方だろ? 警察には言ったのか?」
「言ってない……。だって、言っても意味がないから……。人間の法律じゃ、あいつらを裁けない」
「人間の法律じゃ裁けない?」
「うん、あいつらは……。ぅ、ぅっ、うっ……ずびぃッ……」
目をかきながら、彼女は鼻を啜りあげる。
彼女を辱しめた男を、法律で捌けないとはどう言うことだ。それならばやはり……。俺は決意する。彼女を傷つけた相手に、それ相応の罰を与えられるのならば、俺は世界を敵に回したって構わない。
「そいつらがいる場所が分かるなら、俺に教えてくれないか?」
「りょうくん……何をするつもり……?」
「そんなの、決まってるだろ。落とし前をつけてもらうんだ」
俺の言葉に、彼女の顔がサァッと顔を青ざめる。「ダメよ、だめ……ダメ。私が我慢すればいいだけのことなんだから」
すがりつく彼女のその言葉に、俺はカチンとくる。
「ダメだ。俺が
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