W The end and The biggining
◆1 She communes with him heart, and he dicides his mind.
私とクルスとブロッケンは、様々な場所を旅した。
極寒の雪山も、灼熱の火山も、茫漠たる荒野も、渇ききった砂漠も、毒の吹きだす沼地、果てしなく広がる大海原、死霊の渦巻く古城、触手が混じるジャングル、奇妙な洞穴、……嘘だ。その全てにはいけていない。
でも、その道々で私たちは敵と戦い、人間を殺さない魔物、魔物を殺さない人間と出会い、大切な日々を重ねつつ私たちが旅をしたのは本当だ。
クルス以外の男と肌を重ねることに嫌悪感を抱くようになってしまっていた私は、もはや誰ともセックスをしなかった。あれだけ快楽を求めていたと言うのに、私はピタリと止めることができた。サキュバスの本能が疼いて、時には身を引き裂かれるような欲望に耐えることは、本当に辛かったけれども……。だけど、主神の摂理に逆らうと決めた私は、それをし続けた。まあ、精を補給しないと力は弱まってしまうので、毎日クルスから精液は提供してもらっていた。あれは本当においしかったし、器に溜めたそれを気恥ずかしそうに私に渡してくる彼の顔は本当にかわいかった。だから彼に見せつけながらそれを食すのは、とても気分がよかった。
私はあの三人で誓った時から、人を殺していなかった。
ブロッケンに言わせるとそれが悪かったらしい。
旅の中で、ブロッケンからは、世界のルールとやらを詳しく教えられ、彼が天使だったころの話を聞いた。彼には人を殺さなくてならない呪いがかけられていた。それまで長い時間共に過ごしていたけれど、私は彼のことを全然知らなかったのだと知って、恥ずかしくなった。話さない彼も彼だけれど、確かに、以前の私に話したところで、無駄な話だっただろう。
クルスからは、彼が勇者候補として魔物を虐殺していた頃の話を聞いた。その時の湧き上がる高揚感は、抗えるものでなかったという。彼の王家は代々勇者候補が生まれるらしい。彼の父の嗜好も、もしかすると魔物に対する衝動が置き換わっただけで、本来の王の心ではなかったのかもしれない。でも、それに流されたのは王だ。そう言うのは酷だろうか。しかし、その衝動をを捨て去り魔物を殺さずに生きているクルスを見ていると、私はそう思わずにはいられない。
本当に主神も主神の摂理もロクでもないものだ。
私が男性に襲い掛かりたくなる疼きを力づくで抑えられていたのも、時折湧き上がらる人間への殺戮衝動を抑え込めていたのも、きっと彼らの話を聞いていたからだろう。
でも、そのせいで私は今死にかけていた。
ブロッケンの話によれば、私は魔王の影響を強く受けているらしい。
人を殺さずに生きていける魔物もいる。でも、私はどうやら違ったらしい。人を殺さない欠陥製品になったのなら、破棄される運命(さだめ)になっていた。
人を殺さなくなった私は、その運命に磨り潰されようとしていた。
「 。僕は君に死んで欲しくはない」
クルスは私の名を呼んだ。
正体を隠して泊まった宿屋のベッドの上で、私は横になっていた。彼は隣の椅子に腰かけている。上等の宿だ。誰かから奪ったお金ではない。まっとうに、用心棒をしたりして稼いだお金だった。サキュバスの私がそんな律儀なことをするなんて、彼に出会う前は、全く想像もしていなかった。
ブロッケンは外に出ている。
彼は人を殺さなくてはならない。先日もどこかの村を襲って来たらしい。帰ってきた彼の体からは、懐かしい死と血の凝った匂いがしていた。その死の臭いは、もうすぐ私からも漂おうとしていた。
私はクルスに情けない姿を見せたくなくて、精一杯元気に見えるように振る舞うだけは努めていた。私が生き長らえられているのは、そうした強がりのおかげもあったと思う。それに何より、私はまだ彼の声を聞いて、その温もりを感じていたかった。
私にかけられる彼の声の響きはとても暖かくて、私はそれだけで生まれてきてよかったと思えた。
「僕が、死んでもいい誰かを連れて来るから、その人を殺して……」
「死んでもいい人なんているわけないでしょ。あなたの口からそんな言葉は聞きたくない」
彼にそんな言葉を吐かせる自分を誇らしく思うと同時に、私はとても悲しく思った。
「それでも、僕は君に死んで欲しくない」彼は泣いていた。
「ありがとう。人間のあなたにそう言ってもらえるなんて、魔物に生まれてきたことをこほど良かったと思ったことはないわ」
「僕はこれほど君が魔物であることを恨めしく思ったことはない」
「ふふ。ねえ。私を抱きしめてくれないかしら」
私は甘える子供のように彼に手を伸ばす。
彼は柔らかく微笑んで、私を柔らかく抱きし
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