V Brocken……
◆1 Races
村の男たちを襲い、体の疼きが治まっても、私の渇きは収まらなかった。これまで満たされるセックスなんてものはしたことはなかったけれど、していて悲しくなるセックスなんてものは初めてだった。私は二人と別れ、自分にあてがわれた部屋に戻ってから、どうにかこの渇きを紛らわそうと、ひたすら自分を慰めていた。
多分、これだけの短時間で、自慰で迎えた絶頂の数としては最高記録だ。
でも、どれだけしたところで私のこの渇きは潤うどころかさらに乾いていくだけだった。私は自分の蜜壺をかき混ぜる度、心の水分をどんどん排出していたらしい。私の心は流出して、もはや渇きではなく空洞と言ってもいいくらいに削れていた。
それもこれもあいつのせいだ。
あいつが、私をあんな眼で見ていたから。
私が村の男たちを吸い殺していく光景を、あの無機質な瞳で見ていたからだ。男たちの精液を受ける度、満たされなくとも快楽自体は感じていたというのに、いつもは温かいはずの精液が、どうしようもなく冷たく感じた。
男が事切れる度に、あいつの視線を私は肌で感じた。
それがどうしようもなく痛かった。
今だって、私は自分を慰めて絶頂を迎える度に、あいつの顔がチラついた。それを繰り返し過ぎて、脳髄には針であいつの顔を刻み込んだような感覚すら覚える。
あいつのせいだ。
あいつのせいで強くなったこの渇きは、あいつでなければ潤わない。
いや、あいつに贖わせてやる。
私は、サキュバスである私があいつの精液を吸えば、あいつを吸い殺すことになるのを知っていながら、勿体ないと思っていたくせに、私はそれを忘れ、意固地にそう思った。
私は胸の空洞に耐え切れず、それを埋め合わせる何かを求めて、あいつを選んでいた。
それはサキュバスが性交相手を探すという求めではない。
それは女が男を求めていたわけではない。
それは、まるで寂しさのあまりに人肌を求める、ぐずった子供のような行為だったに違いない。
私は彼の眠る部屋のドアを開け、彼のベッドの横に立った。
青い月明かりがさしていた。窓からの直線的な光は闇を、蒼く、ただ蒼く静かにさしていて、彼の顔に降り注いでいた。漂う埃は、細やかな光の粒子となって、彼を讃えているようにも見えた。
私は彼を襲いに来たことも忘れ、その寝顔に、呆けたように見入ってしまった。恐怖を感じていない人間とは、こんなにも安らかに眠れるものなのだろうか。彼とともに行動するようになってからしばらく経っているが、こうもマジマジと彼の顔を、寝顔を見ることは初めてだった。
その顔を見ていた私の前に、今日吸い殺した村の男たちの顔が浮かんできた。私に魅了の魔法をかけられていた彼らは、私に向かって劣情を催した表情をしていた。だらしなく涎を垂らし、果てる時には一層顔を淫らに歪めて死んでいった。そんな彼らも、こうして家の中で眠る時には、今のクルスのような顔をすることがあったのだろうか……。そして、彼らの妻と床を共にする時には、私を犯した時の顔とは別の表情を見せたのだろうか。
しかし、こうしてあどけない表情で眠るこいつの寝顔の安らかさには敵わないと私は思った。こいつの顔は私が今日吸い殺した男たちの顔立ちよりも、明らかに線が細くて可愛らしい。あの青年よりも、あの中年が若い頃よりも、あの少年が成長した後よりも、誰よりも可愛らしいだろう。
と、私は自分があまりにもおかしなことを考えていることに気づいて愕然とした。私は、なぜ彼らの顔を覚えていたのだろう。私は、なぜ彼らの顔を一つ一つの顔として思い出せたのだろう。私は、人間たちの顔など区別がつかなかったはずなのに。
…………それもこいつのせいだ。
私はこいつをおかしな人間だと思って、彼の動きをいつしか目で追っていた。
グリズリーだけでなく、肉を食べる時、彼は毎度指についた脂をしゃぶった。食べるのが下手らしい。歩くとき、こいつは私の左側にいることが多かった。こいつは本ばかり読んでいたからか、多くの薬草を知っていた。そのおかげで、随分短い間に私の料理のレパートリーが増えた。こいつは、私とブロッケンが交わっている時には気まずそうに席を外す、私が水浴びをしていれば謝りつつ逃げていく。
その様子は、初めて会った時の無機質な瞳、祈るような姿に反しいて、私は気持ちよく感じていた。認めよう、私はそうした彼を見て、楽しいと思っていた。
だというのに、彼は今日、初めて会った時の瞳で、私が村人の男たちを次から次へと吸い殺していく光景を、ただ見ていた。まるで観察するように、まるで私はそういう女なのだと自分に思い込ませるように。
私はそんな風に私を私を見てもらいたくなかった。私は彼らを殺したくて殺しているわけでは
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