ディグダグ、ディグダグ(内容を察してからお進みください)

「あーあ、クソつまんねー」
俺は一人、外でタバコをふかしていた。
「何なんだよあいつら……。それに亮一のやつも、あんな奴連れてきたらこうなることは分かっていただろ……。チッ」
スマホをいじる。
彼女と別れて少し経つ俺は、正直飢えていた。精一杯場を盛り上げようと意気込んで、今日の合コンに臨んだのだが、
「ごめん、敦史。きょう浩二のやつが来れなくなったみたいでさ。数合わせの友達呼んでいい
? お前の会ったことのない奴なんだけど……」
亮一からのラインに快く了承の返答をした俺を、今の俺は全力で殴ってやりたい。というか、一番殴らなくちゃいけないのは亮一(あいつ)だ。あんなやつ連れて来たらこうなる事は分かり切っていた。
亮一が代わりに連れて来たやつというのは、可愛い系の男子だった。合コンにきた相手方の女子たちは一目で奴をロックオンしたらしく、俺と亮一はほったらかされた。奴もまた困ったようにはにかむもんだから、肉食系女子たち(ライオンども)の前に連れてきたシマウマは自分で焼かれに行ったわけだ。
この飲み屋は喫煙オーケーだったが、そいつが「僕、タバコが苦手なんだ」といったら吸いたければ別の場所で吸えと女子どもになじられて、ここで一人寂しく吸っている。

「チッ、今日の合コンはハズレだな……二次会なんていかず、とっとと帰るか……」
すでに諦めていた俺だったが、
ピローン♪
スマホから通知音が聞こえた。
「なんだ? これ。まもむすGO? この世界には魔物娘という存在が人間に化けて過ごしています……。彼女たちの正体を明かして手篭めにしてしまえ? ストレートだな。よく知恵の実ストアさんが通してくれたな。ふぅん、そういう設定か……暇つぶしにはなるかもな」
無料でもできるという事で、俺は早速インストールして、起動させてみた。
「サーチ、と。ん、近くに俺の攻略できる魔物娘がいる……。もしかしてあの女子どもの中にいたりして。でもなぁ……あいつら攻略対象だったところで、落としたいとも思えないな……」
ゲームの画面にはこの居酒屋にシルエットで『get me』という文字が浮かんでいる。
少し、運命的なものを感じずにはいられないが、所詮はお遊びだ。催した俺は、店内に戻り、トイレに行くことにした。スマホをいじりつつ歩く。居酒屋の喧騒をよそに、あいつらの席を素通りしてトイレへ。ニコチンを補給したとはいえ、楽しそうな声は俺の神経を逆なでしてくる。

と、男子トイレのドアを開けようとして、
「わぁっ……」
と可愛らしい声が、だが男だ。いたいけなシマウマ、友喜がいた。俺のイラつきの元凶である奴に、俺は鬱陶しそうな顔をして、
「いいよ。早く出ろよ」
「は、はい……。優しいですね」
男に言われたって嬉しくない。
「気持ち悪いこと言ってんなよ。あいつらみんなお前目当てなんだからさ」
俺はシッシッと手を振る。しかし奴は少し申し訳ない顔をした。
「ごめんなさい。僕、ホントは来るつもりじゃなかったんですけど、亮一くんが数合わせだから、って言うから。こんな事になるなんて思わなくて、僕、女の人って、苦手なんですよね」
はにかむような彼に、やはりこれは肉食系女子たちの格好の餌だな、と俺は思った。
「それに、敦史さんに不愉快な思いをさせてしまって……。別に敦史さんが嫌いなわけではなくて、タバコが苦手で……。でも、敦史さんが好きだって言うなら、克服します」
まるで小動物のような様子の友喜に、俺は苦笑してしまう。こいつはいい奴なのだ。問題なのはあの無節操な女子たちで……。毒気を抜かれたようにも思う。
「大丈夫だ。別に怒ってなんかない。お前はそのまま純粋でいてくれ」
俺は奴の頭をポンポンと叩く。身長の高い俺に比べて、低めの身長である友喜の頭は撫でるのにちょうどいい場所にある。するとどうしてだか、奴は呆けたような顔をしていた。

「どうした? お前主役だろ? 俺の顔になんかついてるか?」
「…………ハッ、い、いえいえ、なんでもありません」
「おかしな奴だな」
俺は苦笑して、友喜のケツを叩く。
「先に行ってろ、俺も後から戻るからさ。もっとビシッとしてればいんだよ。じゃないとあいつら調子に乗るだけだ」
「ひゃ、ひゃい……っ! お、お尻……」
そんな可愛らしい声をあげて彼は飲み会の席に戻って行く。そこでふと、俺は何とは無しに先ほどのアプリで彼を見てみる。それはほんの気まぐれ、魔がさしたとか、言うならば、何か運命の糸に腕を釣り上げられたかのような……。

「おいおい、マジかよ……」
俺はスマホを凝視してしまう。画面に映る彼の後ろ姿は、人間じゃなかった。
俺はトイレに駆け込んでスマホをいじる。そこにはシルエットがとれて、あいつの顔をした魔物娘が写っている。

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