ーー僕はあの子の秘密を知っている。
「今日は、黒です……」
彼女は僕の横を通り過ぎる時、耳元でそう言った。
僕は彼女の言葉が聞こえなかったふりをして、キョトンとした顔を浮かべる。白い頬を赤く染めて、彼女は逃げるように立ち去っていく。彼女の美しい金髪が、腰元で揺れていた。
正直僕の心臓は、口から飛び出そうになるくらいにバクバクと脈打っている。
彼女、今日はそんなパンツをはいてるんだ……。
そう、彼女が教えてくれたのは、今日の下着の色。
どうしてそんな事を彼女が教えてくれたのかというとーー。
私立御伽学園。僕はこの学園の二年生。
あの子というのはこのクラスの委員長リーナ・ウェザー。北欧出身だという彼女は、綺麗な金髪に、湖のように澄んだ瞳、輝く白い肌。僕なんかじゃ、その姿を見るだけで目が眩んでしまうような、高嶺の花という言葉じゃ足りない、文武両道でフェンシング部のエース。有り体に言って別次元の存在。
そんな彼女の秘密を、僕は知ってしまった。
それと言うものもこのアプリ、『まもむすGO』をインストールしてしまったからだ。
何でも、この世界には魔物娘という存在が、その正体を隠して人間社会で暮らしているらしい。彼女たちは魔物が人間になった異形の姿をしているという。そしてこのアプリを使えば、彼女たちのうちで、嫁にするため攻略できる相手が表示される。
何て夢のあるアプリだろう。
僕は半信半疑で始めてみた。
しかし、アプリを起動させた僕は、まず愕然とした。
この学園、魔物娘反応が半端じゃない……。誰が魔物娘で、その魔物娘がどの種族かは分からないけれど、少なくとも女子の半分以上は魔物娘らしい。僕のすぐ隣、というか僕の学校がすでに別の世界みたいになっていた。
だけど、今は置いておこう。
彼女たちが魔物娘だと分かったところで、僕と彼女たちの距離は変わらない。彼女たちは僕の攻略対象ではなかった。
僕の攻略対象はーー。
別次元の存在どころか、人間じゃなかった委員長リーナ・ウェザー。
彼女は……ヴァルキリーだった。
教室で僕は何食わぬ顔でアプリを起動させ、何気ないフリを装って彼女を画面に写す。そこには神々しいまでのヴァルキリーの姿が写っている。こんなーーエッチィことはいけません、なんて素で言いそうな彼女が黒の下着を身につけている。
しかも、それをはかせたのは僕だというのだから堪らない。
僕は、仄暗い情欲に身を焦がしながら、画面の彼女をつついてみる。
「……やっぱりダメか」
このアプリ、画面の中の彼女にタッチすれば、現実の彼女にも同じ刺激を与えられるらしいのだけど、彼女にそうはいかなかった。僕が突つくと、バリアーみたいなのがでて弾かれている。まるでATフィールド。僕のDT(童貞)フィールドで中和してみたいけど……言ってて悲しくなってきた……。
彼女のステータスを見れば、横にはDP(ディフェンス値)が表示されている。なんでも、アイテム屋の狸さんの説明によれば、これは彼女に備わった加護だそうで、この値がある限り、このアプリによるお触りは厳禁らしい。
このままでは彼女を攻略する事は出来ない。といっても、正攻法で僕が彼女にアプローチすればいい話なのだが、「そうさせてしまっては運営の名折れ、いつもはこんな事しないのだが、特別の特別の特別に」と。何度も何度も、恩着せがましいように言いながら(これ、仕様なんだよね? リアルタイムで何処かに繋がってたりしないよね?)、僕のアプリに一つの機能を追加してくれた。
それが
特殊機能【天の声】
信仰心の篤いヴァルキリーに有効。あなたの声を天の声として届けられるようになる機能です。マイクに話しかければ彼女の脳内に話しかける事が可能です。使用中は彼女の声を受け取る事も可能。
僕はこれを使って彼女を攻略すればいいらしい。
天の声ならぬ僕の声は、彼女に話しかけ、今はエッチなフィールドにまで踏み込んできていた。
とは言っても、チキンな僕は、彼女の下着を指定したり、その色を僕に教えさせたりするくらいで(もちろん天の声が僕だとは気がつかれていない)、それ以上の事は出来ていないのだけど……。その命令だって、狸さんのアドバイスを受けて、である。
僕は彼女のステータスを閲覧する。スリーサイズなんてものも載っていてドキドキするが、
「…………また数値が変わっている。でも、これはなんの数値なんだろう」
彼女のステータスにはDPだけでなく、他の数値も記されている。K値と書かれている。それはマイナスで表示されていて、前回見た時よりも幾分数値が上がってゼロに近づいている。
数字部分が減っていく様は、カウントダウンじみていてーー少し怖い。
「もしかして、これって……これが
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