「まもむすーッ! ゲットだぜー!」
……イケナイイケナイ。
あまりの期待の高まりに叫んでしまった。
ゲームはちゃんと節度を持って遊ばないとな。俺がお巡りさんにゲットされかねない。
俺はキャップ帽を被り、リュックを背負う。熱中症対策のペットボトルも完備。嫁さんとのベッドバトルの前に倒れてしまっては元も子もない。俺のポケットモンスターはいつお呼びがかかるかと、ズボンの中で待機している。
とうとう使ってあげる事が出来るかもしれないぜ、なんて俺はムスコに向かって心で語りかける。
俺はこのアプリを見つけてからというもの、この休みの日が待ち遠しかった。
このアプリはまもむす系のゲームを取り込みまくっていた俺のスマホのトレンドに突如現れた。無料だからやってみることにしたのだが、残念ながら……チラホラ魔物娘の表示はあるものの、『 get me』の文字は現れなかった。
しかも、攻略可能でなければスマホのカメラに写したところでその娘の本当の姿は映されない、という厳密なセキュリティ付き。攻略できるのはいつか何処かで見つけられるその娘だけ。
だから、単なるゲームとして遊ぶ普通のユーザーであれば、ここで糞ゲー、と思ってアプリを削除するだろう。そこはどっこい、俺はまもむすゲームユーザーであるだけでなく、クロビネガーである。
ふふ。製作陣を見て俺は確信したぜ。
これは本物に違いない。魔物娘は実在するのだ。彼女たちは伴侶に見つけてもらえるのを今か今かと待っているッ!
とうとう図鑑世界は俺の呼び声に応えたのだ。しかも、再び探した知恵の実ストアでは見つけられず、ググってもヒットはしなかった。これはーー、と俺は鼻息を荒くした。
だから課金して、攻略可能魔物娘の方角が表示されるという方位磁針のアイテムを手に入れもしたのだ。そして今、俺はまだ見ぬ出会いを求めて旅立つ。
ーーまあ、それにかこつけた偽物、という可能性はなくも無いので、これくらいの課金は夢を買った値段だ、と俺は自分を慰める準備はしておく。
「しかし、ここ、ただの公園だよな……」
方位磁針に従って、俺がたどり着いたのは何の変哲も無い公園。随分遠くまで来たものだ。途中、電車も使いはした。
その甲斐あって、画面には何らかの魔物娘のシルエットが浮かび、そこには夢にまで見た『get me』の文字が! だが方位磁針のアイテムは、細かいところまでは教えてくれないらしい。より詳しい探索を行うには、上位の課金アイテムが必要になる。
方位磁針が千円で、精密方位磁針が5万円とはどういう事だ。
アイテム屋の刑部狸の笑顔は真っ黒。
しかし、俺はニンマリと笑う。ここから先は地道に探してやる。それが礼儀というもの。
子供達がキャッキャウフフと遊び、保護者たちが見守っている。スマホを片手にニヤニヤウロウロ、子供達が実は攻略対象ではなかろうか、とかすめるように画面に写している俺に、警戒した視線が送られているのは気のせいだと思っておこう。
安心してください。俺は嫁をゲットしに来たんだ。あなたの娘さんをゲットしにしたわけではありません。だからそこにある交番に駆け込んだりはしないで欲しい。俺は子供達を撮影はしないように注意しつつ、あたりを探索する。
「マジか、全然見つからない……やっぱり騙されたのかな……」
夕方、俺はめげていた。
方位磁針は相変わらずここを指している。だが、俺の嫁さんは全然出現してくれない。俺はベンチに身を投げ出して、無為に過ごしてしまったこの休日を思う。
公園では保護者たちが何やら忙しなく動いている。ママさんパパさんは大変ですね。なんて、益体も無い感想を抱く。
あーあ、やっぱり魔物娘なんていないのかな。イイ悪夢(ユメ)見られたぜ、なんて、俺はアイテム屋の狸さんに中指を立てておく。
そろそろ帰ろうかな。なんて思った俺は、ふと、木立に囲まれた
ーー草むらを見つけた。
そういえば、本家のゲームの初めって、草むらに足を踏み入れたらモンスターが飛び出して来て、博士に呼び止めれるんだったっけ。そうして自分だけのモンスターを託されて旅に出る。
俺は懐かしい感慨を抱いて、ダメ元でそちらに向かう。
この辺りを見てダメだったらもう帰ろう。そんな事も思う。
ざわざわ、と。
周りが騒がしい。
草むらに足を踏み入れて、草をかき分けた俺は、
ゴ、ゴゴゴゴゴ、とか。
ド、ドドドドド、とか。
そんな効果音が俺の後ろで鳴り響いている気がした。
ーー幼女がいた。
彼女は眠っていて、そのふくふくとしてあどけない表情は、まさに天使そのもの。
まさか彼女はエンジェルたん? もしくは眠っているという事でドーマウス。いやいや、最初はネズミという事で、ラージマウスかもし
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