骨の私と霊の私

私、石堂桃華は絶賛戦争中である。
相手は私。今日も今日とてあいつは彼の布団の中。

「ぐ、ぐぬぬぬぬ」
私は幸せそうに眠っている彼の布団の横の膨らみに、歯噛みする。
今日という今日は許せない。
「起きなさーい! そして出ていきなさい! 骨の私」
私が叫んでも彼は起きない。だが、彼の隣の膨らみはもぞもぞと鬱陶しそうに身じろぎする。
私がいるのを知って、彼女はわざと彼にすり寄ったのだ。
彼の眠りが深いのは昔っから知っている。
小さい頃から彼を起こすのは苦労したものだった。
それとは逆に、私の眠りは浅く、部屋に誰かが入ってきたことで目を覚ませるくらい。
だから私である彼女が起きていないわけがない。
私は布団をすり抜ける自分の手を突っ込んで、奴を引きずり出す。
ボテン、とベッドから落っこちる私。

「酷いじゃない。霊の私」と舌ったらずな声。
「ちょっ、あなたまた服も着ないで……」
そいつの姿を見て、私は拳を握りしめ、ワナワナと肩を震わせる。
彼女はスケルトンという魔物娘。真っ白な白骨の体を露わにしている。骨のくせに何でそんなに柔らかそうな肌をしているのだという疑問はあるが、女の私であってもドキリとせずにはいられないような可愛らしい顔に、艶かしい肢体。
ベースが私の死体だから、私って実はいけてたんじゃないか、と自画自賛してみたりもする。
しかし、今の私と彼女は別物。
私は半透明の体で、フヨフヨと彼女と睨み合いながら浮かんでる。
「そんなに彼とくっつきたいのなら、くっつけばいいのに」
「そ、そんな恥ずかしい事出来るわけないでしょう!?」
私は半透明の体で頬を染める。そんな私に骨の私はフフン、とペタンコの胸を張る。
「私のくせに情けない」
「私のくせに慎みがない」
「慎みがあったことなんて、私は覚えていないわ。私はこの体が求める衝動に従っているだけ。私って、慎みがあったの?」
「ぐぬっ、」そう言われると私は黙らざるを得ない。
自分で言うのも何だが、私は私に慎みがあったなどと、口が裂けても言えはしない。

「それじゃあ、そう言う事で」
「そう言う事で、じゃなーい!」
私はいそいそと彼の布団に戻ろうとする彼女の手を引く。
「くっ、シースルー私のくせに、力が強いわ」
「そんな骨骨女に負けるわけないでしょ」
「彼への想いなら負けないわよ」
「わ、私だって……」
モゴモゴと言う私を彼女は鼻で笑う。
こいつ、私のくせに性格悪い。いや、私だからか……。
「と、とにかく服を着なさい」
「大丈夫、私はこんななりだから、合法合法、霊の私はゴーホーム(意訳:墓場に帰れ)」
と、骨女は亡くなった時のロリぷにぼでーで言い放つ。
「むしろ違法よ!」
私が叫ぶと、「ふんッ」
と彼女は強く手を引く。私も負けじと引っ張りもんどり打って二人して彼の布団の上に。
「「………………」」

「私のドヤ顔が憎い」
「そういう私だって顔がニヤけてる」
ぐぬぬぬぬ。
そうして霊(ゴースト)の私は、今日も今日とて骨(スケルトン)の私と彼を巡って争い合う。骨肉の争いならぬ、骨霊の争いだ。
どうしてこんな事になっているのか、事実は小説よりも奇なり、と言うけれど、私がこんな状況になるなんて、お釈迦さまでも分からなかったに違いない。
彼の好きな漫画の言葉なら、『おお、ブッダよ、寝ていらっしゃるのですか』といったところだ。

つまるところ、…………私は死にました。
それは9年前のこと。
彼を含む友達たちと一緒に川遊びをしていた私は、流れに足を取られてそのまま川底へと真っ逆さま。私はもがいてどっちが上で、どっちが下かわからないままに、溺れて死んだ。
その時の事はあんまりにも苦しくて、思い出したくはないのだけれどもーー。
私の死体は見つからなかった。
最期に私が思ったのは彼の事。

ーーあーあ、ここで死んじゃうんだったら告白しとけば良かったな、って。

神さまが私のその言葉を聞いてくれたのか、私は目を覚ませば幽霊でした。いや、神さまというものがもしもいるのなら、幽霊となって地上を彷徨うことを許しはしないだろう。キリスト教も仏教も、霊魂なんて認めていない。
だから、私がこうしている事を認めてくれているのは、そうした有難い何者か、ではなくて、おせっかいでタチの悪い何者か……もしくは未練をタラタラしい私自身なのだろう。
そうして私は彼の守護霊になりました。
彼に私は見えず、私は彼の側でこの9年間ずっと彼の事を見守ってきた。
彼に見えない事をいい事に、添い寝したり、一緒にお風呂に入ったり、トイレにもついて行ったり、だから彼が自慰を覚えたのがいつかも知っている。いやいや、誤解のないように言っておけば、ただの興味本位だ。
霊に性欲なんてあ
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