4.カーラの屋敷

カーラが屋敷の扉をドアノックで叩きます。
ドアノックは竜が輪を咥えた意匠で、それに気付いたヴェルメリオは少し気恥ずかしそうにしています。ご丁寧に色は深紅です。
「どなたでしょうか」
ドアに備え付けられた小窓が少し開いて、落ち着いた女性の声がしました。
「私だ。今帰った」
「カーラ様っ」
急いで鍵を開ける音がして、扉が開きます。
「流石はカーラ様、よくぞご無事で、はないようですね」
右手が禍々しい大剣に変わっているカーラを見て、メイドの女性が固まります。さらにカーラの傍にいるブレイブを目に止めると、
額に手を当てると、よよよ、と崩れ落ちます。
「とうとう過ちを犯してしまったのですね、カーラ様。以前より年下趣味がおありなのは存じておりましたが」
「本当に元からだったのですか!」
ヴェルメリオも額に手を当てたまま、立ちつくしてしまいます。
「だから言っただろう。私はあまり変わった気はしないと。それにヘレン、私はまだ過ちを犯してはいない、これから犯すのだ」
堂々と言い放つカーラにブレイブはもう逃げたくてたまりありません。
そして、カーラは確かにブレイブを犯してはいませんが、過ちといえばこの国の惨状は彼女が原因です。もはや存在自体が過ちになっているのではないでしょうか。
崩折れたままのヘレンの横をカーラはブレイブの手を引いて通り過ぎます。
「私の目の黒いうちはそんなことはさせませんよ」
ヴェルメリオが冷たい視線を浴びせながら続きます。

だから、ヘレンがほくそ笑んでいる顔を誰も見ることはできなかったのでした。





「では、脱げ」
部屋に通すなりカーラが言い放ちます。
もちろんリビングアーマーをですが、瞳をぎらつかせながら見つめてくるカーラのせいで脱ぐことがためらわれます。
ヴェルメリオに縋るような上目遣いを向けてしまいます。そういった仕草が自らの首を徐々に締めて行っているのに気づかないのでしょうか。
「大丈夫ですよ。私もいますから」
息を飲みそうになったのを悟られないようにしつつ、ヴェルメリオは微笑みで返します。

それをヘレンが、ニヨニヨしながら見ていました。
ばっ。
ヴェルメリオがヘレンを見ますが、ヘレンは、どうかされましたか?、と素知らぬ顔です。
何か不快な視線を感じたの思ったのですが、気のせいだったのでしょうか。
ヴェルメリオは訝しがりますが、ブレイブがリビングアーマーを脱ぎ始めたので、気をそちらに戻しました。

そして、リビングアーマーを脱ぎ終えたると、ブレイブは一反木綿を体に巻きつけた姿になりました。
「君はそれをわかってやっていたのでしょうか」
「なんという、けしから、羨ましいことを」
「あら、まぁ。幼くとも流石は殿方ということですね。それと、カーラ様、本音と建前が逆なのではないでしょうか」
三者三様の反応を見せますが、ブレイブは何もわからずキョトンとしたままです。
ヴェルメリオが説明します。
「ブレイブ、君が身につけていた魔物娘はリビングアーマーだけではありません。その体に巻きつけている布も歴とした魔物娘なのですよ」

驚くブレイブを余所に、巻きついていた布が動き出します。
布の端はブレイブの股間に張り付いていて、そこから捲れていきます。するすると他の布も捲れてブレイブの顔の前に持ちがり、布に柔和な微笑みが浮かび上がります。
「うわわっ」
ブレイブはさらに驚きますが、まだ彼女の布の体は半分以上ブレイブに巻きついているので飛び退くこともできません。それどころか、先ほどまでは感じられなかった女性の柔らかな感触が布から伝わってきて、
「貴様、何故股間に顔をくっつけていた。ブレイブきゅんの股間に顔をぉ!」
カーラが力一杯叫びます。大事なことなので二回言いました。大剣も形成して今にも切りかからんばかりです。
「何故って、魔物娘さんだったら決まっているじゃないですか」
ねぇ、というヘレンに布も笑顔で返します。
「ぐぬぬぬぬ」
カーラが唸ります。
「それで、あなたは一反木綿ですね」
話が進まなくなりそうなので、ヴェルメリオが尋ねました。

「ええ、そうです。この身は一反木綿。私(わたくし)は一反木綿の白衣(びゃくえ)と申します。以後、良しなに」
下半身はブレイブに巻きつけたまま、白衣は丁寧に頭を下げました。
それにしても、一反木綿に発声器官はないはずなのに声が聞こえました。
「魔力で空気を振動させて会話を成立させるとは、なかなか器用なことをしますね」
ヴェルメリオは感嘆します。布という不安定な体で魔力の振動を声の波長に合わせる。見た目の穏やかさとは裏腹にかなりの力を持っていると見受けられます。
「いえいえ、私はこの体ですから。できることといえば魔力を扱うことと、旦那様に巻きつくことくらい」
ブレイブに巻きついた下半身がもぞも
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