妖怪大戦争開幕、すんのかな? しないんじゃないかなぁ? どうなの、ぬらりさーん

朧な記憶の中ーー
俺は揺りかごに揺られていた。
それは霞みがかって、手を伸ばしたって届かないような距離。
誰かの顔が、影に滲んでいる。

ーーこの子が我らの主となる方か。
ーー左様。すでに消えようとしている我ら妖怪。その復興の礎となる方じゃ。
ーーおお、良い顔をしておる。これならば、これならばきっと。
ーー我らを忘れた人間どもに、我らの恐怖を思い起こさせよう。
ーー左様じゃ。
ーー左様じゃ。
ーー主を人間から選んで正解じゃ。彼奴ら目の驚き畏れる姿が目に浮かぶ。
ーーそれでも人間どもが我らを省みなければ?
ーー決まっておろう。戦争じゃ。
ーーおお、おお。そうじゃ。見せて効かぬならば、それしかあるまい。
ーー太平の上に胡座をかく、人間どもに思い知らさねばなるまい。
ーーこの世には我ら妖怪もおると言うことを。
ーーでは、こやつの心の一部を貰おうとするかのぅ。
ーー心に出来る闇にこそ我らは巣喰い生まれる。
ーーそれならば、主たるものには飛び切りの闇がなくては。

く、くくく。くかかかかかか。

一斉に、この世のものとは思えない笑い声が上がる。
一斉に、行燈(あんどん)に照らされた影が踊る。
浮かび上がった影は、世にも恐ろしい異形どもの影。

「そーはいかないんじゃないのかなー。ねー、ぬらりさーん」
「何だィ、その話し方は」
「いいえ、流行ってるって聞いたんだけど、違ったかしら?」
「少なくともあたしは知らないネェ」
「そう……じゃあ、多分これから流行るのかしら?」

ーーな、なんじゃお主らは!?
現れたのは、ぬらりひょんに白髪赤目の美女。
異形の者どもは狼狽える。

「何だと問われれば答えてみせよう。私たちは隣の世界からやってきた魔物ッ、娘ッ!」
「フゥー…………ッ、あんたはいい年して何をやりたいんだイ?」
「年の事は言うなッ! 久しぶりの出番で、キャラを忘れてるのよ」
「ふぅーん。リリムってェのは時々よく分からない事を言うねェ。しッかし、だからこそ、こんな面白いところにあたしを招待出来るってェもんなんだろうよ。くっくっく」
「好きにしてくれて構わないわ。思う存分にやってしまって頂戴。私がやった後は、総大将。あなたに丸投げするわ」
「ぶっちゃけたネェ。あっはっは」
「そこで笑ってくれるあなたが好きよ。さぁ、みぃんな、魔物娘になっちゃえーッ!」

ーー何を分けの分からん事を……。
ーーなッ、何じゃこれは、儂ら、女子になっとるーーーッ!
るーッ、るーッ、るーッーーーーーーー
異形の者どもは、異形でありながらも、紛れもない美女の姿に変じていた。

俺は奇妙に甲高くなった彼らの残響を耳に残しながら、意識を覚醒させていく。
それは深海からゆっくりと浮上していく感覚。バラバラになっていた体が繋ぎ合わさり、泥の塊でしかなかった己自身に血が通い、それが肉として再生されていく。
俺は、徐々に浮上して、

「戦争ですッ! ゆうくんをあのぬらり女に渡さないためには、もはや戦争しかありませんッ!」

会長の声で、底網漁で一気に引き上げられ感覚に変わった。
俺はその網を引きちぎって再び記憶の底に沈んで化石になってしまいたかったが、それは許してもらえなかった。

目を覚ませば、そこは広い和室。
ムッツリとした顔でも隠しようのない美女の、異形の存在たちが所狭しとひしめいている。
俺は再びーー自分の頭を殴ってでも気絶したかったがーーそれは、あの、ベッドから這い出てきた女に止められた。俺が目を白黒とさせていると、彼女はニィ、と笑って、その潤った唇に人差し指を当てて、それはもうこの上なく艶かしく、シィーッとやった。

「あら、起きましたか?」
「えっと……。ここは……。あなた、会長ーーですよね?」
俺は声をかけてきた女性、部長そっくりの容姿であるが、その髪は白く、真っ白な和服を着て、真っ白な蛇の下半身を持った彼女に、そう問いかけた。その姿を俺は、怖がるどころか、どこか懐かしいもののようにも感じていた。
「ああ、聞きましたか皆さん?」彼女は嬉しそうに、「この姿であっても彼は私と分かり、なおかつ怖がらないでいてくださいます。これは愛に違いありません。蛇の良さを伝え続けた私の教育の賜物です!」
「教育と言っている時点で愛以外のものが混じってにゃーかー?」
「シャラップ! です」
会長?は副会長に似ている猫耳と二股の猫の尾が生えた女性に叫ぶ。
猫の女性は何枚も積んだ座布団の上に器用にバランスをとりつつ、仰向けになっている。

「えっと、これはどう言った状況なのでしょうか?」
あたりを見回せば、簀巻きにされた殺女(あやめ)の姿が目に入る。
それも、気絶する前に見た、下半身が蜘蛛で緑色の肌、頭に角をつけ
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