「おかえりなさーい。ご飯にする? お風呂にする? それとも、妻であるわ・た・し
#10084;」
帰ってきた彼に私はシナを作りながら問いかける。
「ただいま。お風呂にする」
ちぇー、と頬を膨らませる私をほっぽって、彼は背広を脱ぎ、ネクタイを緩める。
待った、待って。それは私の役目、と、私ははしゃぎながらその背広を奪い取る。彼はやれやれ、なんて言いながら私に背広を渡す。シワにならないように気をつけながら、背広をハンガーにかける。次にネクタイを受け取って、シャツを受け取って、
おっと、いけない。彼の汗の香りが届いたせいで、ヨダレを垂らしそうになってしまった。
私のそんな表情は彼に見えているに違いない。
それなのに彼は、そそくさと脱衣場に向かう。
この絵に描いたような新妻である私をそんな風に扱うとは、世の男たちから多大なるバッシングを受けるだろうに、彼はそんなことは御構い無し。
そんな彼に、健気な私がついていかないわけがあろうか、いや、ないわけがない(力説)。
私の目の前で彼はパンツを脱ぐと(それを受け取った私は顔をうずめる)、そそくさと風呂場に入る。私は名残惜しいものの、パンツを洗濯機に放り込んで、急いで自分の服を脱ぐ、そうして映った脱衣場の鏡には、魔性の美女が生まれた姿で突っ立っていた。
気だるそうでありながら、切れ長で黒目がちの瞳。片目を閉じて見せれば長い睫毛が目立ち、ぽってりした唇でキスをねだれば、これで落とせない男はいないと確信できる。ほっそりとした首には鎖骨が浮き立って、自慢のツンと張ったおっぱいには花柄の墨が入っている。その花をさす花瓶のようにほっそりとしたウェストがあったと思えば、直ぐに前から見えるお尻があらわれる。丁寧に整えられた淫毛は、気合十分。
大事なことなのでもう一度言っておこう。
脱衣場の鏡には魔性の美女が立っている。
ーーぬらりひょんの私が立っている。
ぬらりひょん。魔物娘。この極東の島国における大妖怪。
男を籠絡して淫らな性生活を送ることには定評がある魔物娘の中ですら、大物として定評のある存在。
私はもう一度鏡を見る。
うん。美女だ。
ナルシストでなくとも、自他ともに認める美女に違いない。
だというのに、彼……言い直そう、あの野郎。いやいや、彼、は……。
ぬらりひょん。
いつの間にか家にいて、その家の主人であるかのように堂々と振る舞い、寝食をともにする。そこまではイイ。私たちもそういった関係だ。
私の手練手管により、彼はいつの間にやら私とまぐわい、私の夫になる。
そう、なるはずなのに……。
いや、そうなっている。私たちは何度もまぐわった。だから私たちは内実ともに夫婦である、はずなのに……。
あやつ私を妻として認知しやがらねぇ。
もうすでに数日を共にして、何度も交わって、あいつは私を手放せなくなっている。
それは確かだ。確信だ。
私に気がついたらもう普通に妻にしてくれるはずなのに、彼はどうしてだか私が妻であることだけは認めない。
私の魅力にめろめろであるはずなのに。
私に夜はいいようにされてるくせに……。
なんたることであろうか!
「ぐ、ぐぬぬぬぬぬ」
私は歯をぎりぎりと噛み締め、力の入った眉間にシワがよる。
その顔を見て私は頬を叩く。
美女がこんな顔をしていてはもったいない。
よーし。今宵も戦である。頭の中のホラ貝を合図に、私は風呂場に突入する。
頭を洗っている彼の背中に張り付いて、ふくよかな胸をおしつける。ビクリとする彼に気を良くして、「かゆいところはありませんか」と彼の返答を聞くまでもなく、ムズムズしているところをまさぐってやる。
「お風呂を選んだ意味がないじゃないか。君は我慢がきかないな」
呆れた声を上げたくせに、私の手のひらの中で彼は可愛らしく呻き、すぐに果ててしまう。
手のひらについた彼の液に舌を這わせながら、私は次の行動に移る。
「君とこうしていると疲れがふっとぶのは事実だけどな」
呆れながらも彼は私を受け入れてくれる。むしろ彼の方から私の体に覆いかぶさって、それなのに、
「理性もふっとべば、私のことを妻と認めやすくなるでしょう?」
「おいおい、いつも理性がふっとぶのは君の方じゃないか」
それだけは認知しない。
私が押せばすぐに包み込んでくれるあたり、彼の方に理性があるというのはおこがましい。いや、あるのか……。それでも始まってしまえば彼こそ野獣のような有様。
互いに舌を絡ませて、浴槽の縁に腰掛けて、くんずほぐれつ。
「今日もお勤めご苦労様。今からは私が妻の勤めを果たすわ」
「そうか、大根の役目か」
「んだと、コラァー!」
私は股の間の彼の頭を締め付ける。彼は必死でタップするが、頭に血が上
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