吹雪の中の星

「ママぁ……パパぁ……」
 寒いよう。寒いよう。
 吹雪の中、僕は一人ぼっちでさまよっていました。
 ほっぺに当たる雪は冷たくて、肌が裂けてしまいそうなほどに、きんきんとしています。

 雪は深くて、僕はなんとか進んでいきます。
 でも、どっちに進めばいいのだろう。
 どっちに進めば、おうちに帰れるのだろう。
 僕には見当もつきませんでした。

 見えるものは全部が全部真っ白。
 もう、怪物のおなかの中にいるような気さえします。
 ここは寒くてーー寒くて。
 吐き出す息さえ凍ってしまいそうな……。

 あ、あれはなんだろう?

 僕は空を見上げます。
 空も真っ白で、それが本当に空なのかは分からないけれども、きっとーー空。

 だって、あんな高いところに、二つの真っ赤な星が静かに輝いているから……。

 僕はもがくように、それに手を伸ばします。
 おうちに帰りたい。お星さま。どうか僕をおうちに帰してください。
 流れ星にお願い事をするように、僕は必至で祈ります。
 唇はもうカチカチで、言葉は出ないけど、それは聞き届けられたようでした。

 真っ白な吹雪の中、僕は不思議な暖かさを感じました。
 前を向くと
 真っ白な肌色の女の子が、僕に「えへへぇ」と笑いかけてくれていました。

 ◆

「ママ! パパ!」
 僕は自分の家のドアを勢いよく開けると、その中に飛び込みました。
 暖かな暖炉の火。ゆりかごで揺られている僕の弟。
 よかった。おうちに帰れたんだ。

 泣きそうな顔で迎えてくれたパパとママは、僕にスープを飲ませてくれました。
 あんまりにも疲れていた僕は、そのスープをゴクゴクと一気に飲み干して、すぐに暖炉の前で横になりました。

 ◆

「たきぎを拾ってきてくれないか?」
「わかったよ。パパ」
 僕はパパに連れられて、森の中、たきぎを拾いにきました。たきぎを探して、僕はどんどん森の中に入っていきます。
 
 しばらくして、たきぎを見つけれなくて、僕はトボトボと道を引き返します。
 元来た道を引き返せば、そりの跡が雪の上、どこまでも続いていました。来た道とは別の方に跡は続いています。
 パパはいませんでした。

 ……もしかしたら、魔物に襲われたのかもしれない。

「パパー!」
 慌てた僕は、大きな声で叫びます。
 でも、木霊も何も帰ってきません。
 深く積もった雪に……深く、深く、沈没するように。僕の声が吸い込まれているようでした。
 お日様は斜め向こう。
 もうすぐ夕方になりそうです。

 僕はトボトボと、そりの跡を追いかけて歩き始めます。
 ここは僕のおうちから遠く、見たこともない場所です。
 針のような葉っぱの木に、重たそうに雪が乗っかっています。

 そりの跡は、そんな森の中に続いていました。おうちとは別の方角。
 やっぱり、魔物にさらわれたんだ。魔物のお姉さんたちがいいヒトたちだってことは知っている。でも、気に入った人をさらってしまうことも知っている。
 僕のパパを連れて行かないで。

 森の中は薄暗くて、僕はなんとか雪に埋もれないように進みます。
 狼が出てこないだろうか。
 それとも、魔物が出てこないだろうか。
 不安な気持ちでいっぱいで、僕は森を進みます。

 歩いているうちに、あたりはどんどんと暗くなっていきます。
 いけない。
 これではそりの跡が見えなくなってしまう。
 僕は急ぎます。
 でも、ここはおうちから、本当に遠い場所のようで……。
 とうとう、あたりは真っ暗で、雪も降りはじめました。

 風が。
 吹雪が、僕を食べようとしているように、びょうびょうと、わんわんと吹いてきます。
「う……ぅう」
 僕の目に、冷たい涙があふれてきます。やっぱり。僕はーー。

 その時でした。
 ズシン。
 何か大きな物音を聞いて、僕は身をすくませました。
 なんだろう。
 
 ズシン。
 近い。
 めきめきと、木をかき分けるような音がします。
 僕の目の前に、木々をかき分けて、大きな手がぬぅっ、と。
 あんまりにもビックリした僕は、気を失ってしまいました。

 目を閉じる前、いつか見たことのある、二つのお星さまがーー。

 ◆

 パチパチ。

 僕が目を覚ますと、暖かなたき火がありました。
「ここは何処?」
 あたりを見渡すと、岩に囲まれた洞窟の様でした。

「あ、目が覚めたぁ?」
 トロンとした声の元を、僕は見ました。
 そこには、この前僕を助けてくれた女の子がいました。
 見ればその子は裸でした。
 あの時、僕を助けてくれたときも裸でした。
 
 毛におおわれた二本の足。頭に生えた角。フサフサのしっぽ。女の子は、人間ではありませんでした。魔物の女の子。でも、この子はパパをさらってはいないと思います。

「助け
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