後半

「報告します!」
 魔導通信玉から切羽詰った声が聞こえた。
「相手サンドウォームを拘束、その頭部を破壊しました」
 その場に居並んだ貴族、大臣たちから安堵の声が漏れた。
 だが、国王は嫌な予感を覚えていた。
 彼の眉間に皺がよる。相手を殺せたのならば、何故、

 そんな声を出している?

「しかし」
 国王の予感は当たる。
「頭部を失ったはずのサンドウォームは再び起き上がり、拘束を振り切り再び走り始めました。現在街に向けて暴走しております!」
 大臣たちは色を失い、貴族たちからは悲鳴が上がった。
 国を守ることも忘れ、わが身の保身に走ろうとする。彼らの浮き立つ足を見て、国王は冷たい視線を向ける。
 魔物の侵攻は忌まわしいが、役にも立ってくれた。
 この国を思わぬ蛆虫どもを浮き彫りにしてくれた。王は内心でほくそ笑む。
 王は心の中、切り捨てる人員のリストに彼らを記しておく。
「勇者リュートはその頭部にしがみつき、攻撃を加えているようですが、一向にひるむ様子はありません。リュート殿の攻撃でも、簡単には傷つけられないほどの硬さです」

 報告を聞いて、国王は大きなため息をつき、
「魔導砲の使用準備を」
 と、言った。
「ま、魔導砲……」彼の言葉にどよめきが上がる。
「な、なんだそれは」
 貴族の中にも知らないものがいるようだ。
 自分たちの身を守る道具くらい覚えておけ。王は呆れ、その発言の主を無能の帳簿に加える。

 魔導砲。
 それは、蓄積させた大量の魔力を一気に解き放つ大威力の兵器である。
 それが使用されたことは今までにない。一度放てば、再び必要な魔力を集めるまでにかなりの時間がかかる、外すわけにはいかない。
 しかし、報告を聞く限り、出し惜しみをしている暇はない。
 相手の目的はわからないが、勇者の攻撃に耐えうる甲殻に、サンドウォームにあるまじき知性。街壁を越えさせて暴れられれば、その隙をついて魔物の軍勢に襲われ、そのまま国が亡びることにもなりかねない。
 魔物に隙を見せてはならない。

 国王は受け継がれてきた信念を拳に握り込む。
 その信念は、息子にも受け継がせるものだ。
 彼は大臣を呼び寄せると、耳打ちをする。

「念のため、王子は非難させておけ」
 保身と、保護は違う。自分が倒れようともこの国は続けさせる。
 魔物の脅威になど負けはしない。
 人間の砦としての国王の言葉に、大臣は恭しく頷く。

 ◆

「チィいいい。止まれ、ってんだよ、このデカブツ。つーか、くたばれぇええ!」
 リュートはすさまじい速度で進むサンドウォームにしがみつきつつ、剣を叩きつけていた。
しかし、削れはするものの、サンドウォームは少しも速度を緩めることなく走る。
 その見事な巨体をさらした砂蟲は、障害をものともせずに走る。その大質量の暴走は、狂った列車のように速度を上げ、一直線に王都へとむかう。
 すでに、砂上にそそりたつ、王宮が見えている。

 リュートは焦る。
 勇者とはいえ、その力は無限ではない。
 この硬度の甲殻を吹き飛ばすほどの大威力の攻撃は、使えても後二、三回が限度だろう。
 頭を吹き飛ばされても走り続けるこの化け物は、体全てを粉々にしなくては止まらない。だが、それにはこいつの動きを止めて、魔力を練らなくてはいけない。頭を吹き飛ばすだけではなく、体全体に当てなくてはいけない。
 どうするかーー。考えろ。考えろ。

 そこに、
「すごいですね。そんなところにしがみ付いていられるなんて……」
 ベアトリスが魔法で飛翔しつつ、並走していた。
「のんきに言ってんじゃねぇよ。処女! つーか、お前、よくついて来れんな……」
「処女っていわないでください!」もはや否定することもなく、彼女は言う。「私を舐めないでください。これでも、国の優秀な魔導師ですから」
「ふーん」
「ちょっ! なんですかその視線は」
 顔を赤らめる彼女を無視する。
「じゃあ、お前、こいつの動きを止められないか? そうすりゃ、俺はまたデカいのをぶっ放して、こいつを粉々にしてやる」
 彼女は思案気に形の良い指を唇に当てる。つやのある唇に、眼鏡が光る。
「思いつきません」
 彼女は自信満々でそういった。
「役にたたねぇな! これだから処女は、一発ぶち込めば頭もさえるんじゃねぇのか
#8265;」
 あんまりな彼の言い分に、彼女は顔を真っ赤にさせる。
「だから、いちいちそんな下品なことを言わないでください! 私の魔法は繊細なんですよ!? あなたのように大威力で放てばいいものとは違います。凍らせようったって、この大きさと重さなら、すぐに逃げ出されてしまいます。炎だって、少し焦げただけだったし……」
 少ししょんぼりとした彼女を見て、リュートは考える。
 炎と氷。そして、今彼女が使ってい
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