前半

  僕には魔物の友達がいました。
 可愛かったあの子。僕はあの子のことが好きでした。
 本当はいつだって一緒にいたかったけれど、僕の国は反魔物国。だから、僕らはこっそりと遊んでいました。でもある時、あの子と遊んでいることが大人にばれて……。

 あの子はどこかへ連れて行かれてしまいました。
 あの子はわんわん泣いて、僕もわんわん泣いて。

 だけど、大人の人は怖い顔をして「魔物は人間の敵だ」と僕に言いました。
 僕は「違う、あの子はいい子だ」と言いましたが、誰も聞いてくれません。
 それどころか
「この子にはちゃんとした教育を受けさせなくてはいけない」
 と、今まで見たこともないような怖い神父さんや勇者さまを連れてきて……。

 あの子がどうなったか僕は知りません。でも、これでよかったのだと思っています。
 だって、今では僕は、ちゃんと魔物が悪い奴らだということを知っているから。

 ◆

「どうしたんスか? ボーっとして」
 甲冑をまとった男に声をかけられて、彼は億劫そうに振り向いた。
「なんでもねぇよ。砂が鬱陶しいだけだ」
 野卑な口調で返したのは、白銀の鎧に身を包んだ青年だった。
 端正な顔立ちではあるのだが、内面の荒々しさが顔ににじみ出ている。
 彼は勇者リュート。勇者とはいえ、教会には所属していない。腕は確かなのだが、彼の性格からーー教会で大人しくしていることができず、テキトウな傭兵団に所属していた。

「早くブッ倒して、豆でもつまみつつ酒を飲みてぇ」
 リュートの言葉に、周りから野太い声が返ってくる。
「そうッスね。早いこと退治して、娼館にでも繰り出してぇよ」
「豆は豆でも、ねーちゃんの豆がいいってなぁ」
「違ぇねぇ」
 ゲハハハハ、と下品な笑い声。
 礫砂の砂漠の上に張られた陣営で、武装した男たちが談笑していた。彼らの身にまとう甲冑には夥しく細かな傷がつき、彼らが少なくない戦闘を潜り抜けてきた猛者たちであることを示している。

 そんな彼らに冷めた視線が向けられていた。
「あんたがここで相手をしてくれてもいいぜ?」
 振り向いて言うリュートに、彼女はあからさまに嫌そうな表情を浮かべる。
「おいおい。そんな顔をしたら別嬪さんが台無しじゃねぇか」
「ふざけた事をいっていないで、ちゃんと気を引き締めてください。もう、相手は近くまできているそうですから」
「安心しろよ。俺を含めてこんな馬鹿どもでも、ヤるときはヤるんだからよ?」
 フン、と再び顔をそむける彼女はベアトリス。彼らを雇った王国から派遣されたお目付け役だ。綺麗な顔立ちをしているが、このような男たちの中にいて不機嫌な様子を隠しきれていない。今も「どうして私が……」と、ブツブツ呟いている。
 苛立ちのあまりか、眼鏡に手をやる頻度が高い。野卑な男たちの中にいるにはあまりにも似合わない、洒脱な衣装に身を包んでいる。手には杖を握りしめ、典型的な魔術師を思わせる女性である。
「あなたたち臭いです」「そぉかぁ? だが、しばらく一緒にいれば病み付きになるぜ?」
 ゲハハハ、と。再び野太い哄笑。
 彼女はこれ見よがしにため息をつく。それでも、歯に衣着せぬ物言いで、気丈にふるまう。そんな性格の彼女だからこそ、ここに派遣された、とも言える。
 気弱な女性であれば、彼らに囲まれてしまえば泣き出してしまう。

「んで? あんたもヤれるんだろ」
 リュートの言葉に、彼女はギロリと睨み付ける。
「馬鹿なこと言っていると、燃やしますよ?」
 杖を突きつける彼女に、リュートは苦笑する。「そっちじゃねぇよ。あんたも戦力になるんだよな? って、確認してんだよ」
「ああ、そっちの事ですか。……もちろんです。私の魔法に驚けばいいのです」
 この国でも上から数えた方が速い腕前を持っている、と彼女は自負している。
「そっち、……って」リュートはしたり顔で笑う。「何考えてたんだよ。このムッツリ」
「む、むっつり!? おかしな事を言えば、いくらあなたが勇者だろうと、問答無用で燃やしますよ! というか、今すぐ燃やします。そこに直りなさい!」
 彼女の顔は少し赤い。
「お、図星じゃないか。というか、その反応。あんたもしかして処女?」
「しょッ!? そ、そんなわけないです。私はもう数えきれないくらい経験しています」
「じゃあビッチ? ……っとぉ! あっぶねぇな。魔法をとばしてくるんじゃねぇよ!」

「リュートさん、もう仲良くなってるよ。うらやましいなぁ、畜生。勇者さまはズルいぜ」
 いつもの事だ、と周りの男たちが様々な視線で彼を見ている。
 と。

 ザ、……ザ、ザーー
 魔導通信玉に反応があった。
 途端。
 彼らの表情が一変する。その顔つきは引き締まり、獰猛な戦士の群れが顕現する。
「おいでなすったかーー」
 何
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