―――龍は恐ろしい魔物
小さい頃からそんな話を聞きながら育ってきた。
人を含む生き物の肉で腹を満たし、生き血を飲んで喉の渇きを癒す。
非常に強力な力を持っており、常人には太刀打ちができず、ひとたび怒らせたならば豪雨を降らして山崩れや川の氾濫を起こしてしまうという…
そんな魔物を倒す使命が私に与えられた。
なんでもこの村では成人を迎える20歳になると、村の長老の家に祀られている宝剣を鞘から抜く儀式を行い、見事刀を抜けた者は龍を倒すことの出来る選ばれた者になるのだとか。
祀られている宝剣も、数十年ほど前に不思議な雰囲気を纏っている巫女様が村に訪れて授けてたものらしい。
それを初めて抜いた私は途端に村中から祭り上げられて、勇者として旅に出ることとなった。
出発当日。
長老の長い話を終えた後は、新調された服に袖を通し宝剣とたくさんの食料と水といった荷物を持って、いよいよ龍がいるとされる山へ向けて歩き始めた。
村を出てからしばらく経ち、村で持ち上げられていた熱が冷めてくると色々な事が頭に浮かぶ。
いざ討伐の旅! と威勢よく出たはいいものの、しがない百姓の家の子でしかない者が、たった一人で言い伝えにあるような龍を倒せるのか不安で仕方がない。
そんな気持ちを少しでも紛らわせようと、宝剣を手に取る。
金属で作られているはずなのにやけに軽く感じられる。
抜いて見ると、光り輝く刀身に心を奪われそうになるほどの美しさを感じた。
鞘の方を見ると、大切に扱われていたのが分かるほど手入れされており、所々に大きな動物の爪や大きい鱗を使った装飾が施されている。
爪は白く宝石の様な美しさ、鱗は透き通るような緑色をしておりどちらも非常に綺麗なもので、時が経つのも忘れて日が暮れるまで歩きながら眺めてしまっていた。
翌日
朝起きてからというもの、やけに体が熱い。
初めて村の外で一夜を明かしたりと旅に慣れてなくて疲れが出ているせいだろうか思い、早めに休憩を入れることにした。
川の畔で身体を休めつつ、水を浴びて体の熱を冷ましていると、すぐ傍に誰かがいるような不思議な感じがする。
すぐに周りを見渡しても小動物すらおらず、草木が風に揺られて葉音を立てているだけだった。
……気のせいなのだろうか?
魔物討伐の旅ではあるが、道中で他の魔物や野生の獣と出会うことがあるかもしれないので気を緩めないようにしておこう。
一休みを終えて再び歩き始めると、また体が熱を持ち始めたけれど、今朝と比べて火照るくらいで気にならなくなっていた。
さらに翌日
昨日の身体の変調とはすっかり変わり、体調がすこぶる良くなっていた。
心身ともに活力に満ち溢れていて、普段ならそろそろ休憩をと思うほどの距離を進んだり、刀を振るっても疲れが出ないほどだ。
ここまで調子が良いと不調の原因について考えることをすっかり忘れてしまっていた。
そんな元気に任せて進み、遂に龍が住んでいるとされる山の麓に着く。
龍の詳しい住処が分からず彷徨っていると、いつの間にか森を抜けて泉の周囲に花が咲き誇る美しい場所が目の前に現れた。
綺麗な光景にの傍に洞窟を見つける。
入口は広く割と奥行きがあるようで、もしかすると住処になっているのかもと思い進んでみようとすると不意に後ろから声を掛けられる。
「あの、何か御用でしょうか?」
振り返ると、今までに見たことも想ったこともないほどの美しい女性がいた。
…………人にあるはずの無い角や白く大きい爪、蛇の様な長い下半身、そして緑の鱗の包まれた体であることを除いて。
人でない魔物の妖艶な雰囲気に心を奪われてしまっている自分がいた。
しかし、その気持ちを抑え、倒すべき相手であることを思い出し腰に差していた宝剣を抜いて向かい合う。
「村に災いを招く前に退治します!」
魔物は少し驚いた表情をしたが、すぐに微笑む。
「ええ、どこからでもどうぞ」
襲い掛かってくることもなく構えられ、気後れしてしそうになるところをなんとか堪えて斬りかかる。
だが魔物に刃が当たることなく躱されてしまう。
初めて刀を力いっぱい振るったことで体勢を崩してしまい、その隙を突かれてしまうかと思ったが、ただこちらを見ているだけであった。
こちらの様子をうかがっているのか、それとも甘く見ているのかは分からないが、今の内に決めるしかないと手を緩めないよう刀を振るう。
時には避けられ、時には受け流されて全く当てることができない。
未だに魔物は攻撃をしてくる気配が全くないのが幸いだった。
が、いくら軽く感じられる宝剣と言えども疲れは溜まるもので、ずっと振り回し続けていることで疲れ果ててしまう。
すっかり息が上がり足がふらついているところを、魔物が近付いて来る。
まずい! そう思い僅かに残る力を振
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