実家から排斥された僕は、それからは中央のアカデミーに通うことになった。母から「王さまになりたい?」と聞かれてから十数日後のことだった。
まあ排斥されたとはいっても、あくまで対外的な形だけのものであったんだけども。現に母や弟も何度かお忍びで様子を見に来てくれたし、親父様に至っては週に一度は必ず手紙をくれたりしてた。
こんな風に実家とは上手くやりながら数年が経ち、僕がアカデミーに研究員として招かれるようになった頃、実家でちょっとした事件が起きた。どうやら親父様の側近だった男が領地の乗っ取りを企てたんだそうな。
弟の働きもあり企みそのものは水際で何とか食い止められたそうだが、ここで一つ困ったことが起こってしまった。あろうことかこの僕を、この乗っ取り劇の主人公に仕立てていたらしい。こうならないように僕はアカデミーに来ていたはずなんだけど、どうやら見通しが甘かったようだ。
当然、家族内では失笑ものの馬鹿げた話しなんだけど、噂には尾鰭背鰭が付くのがこの世の常と言うもの。ゴシップ好きな奥様方のお陰で僕はあっという間に「名君である父の血を引きながらも妾腹から望まず野に下され復讐のために領主の座を狙う卑劣漢」とされてしまった。本人の預かり知らぬところでどうしてこうなった。僕にしてみれば「名君(笑)」「復讐(笑)」としか思えないのだけど。それに妾は今は後妻に収まってます。
まあそれは兎も角としても、ここまで噂が大きくなりすぎると何を言っても焼け石に水。このままでは領内の混乱が長引いてしまうのでは? と思った僕はこの噂を全面的に肯定した上で詫びを入れ、正式に継承権を放棄することで弟に領主の座を委ねる事をはっきり宣言し、その上で減罪を求めることにした。まあ所謂司法取引と言う奴だけど、はっきり言って出来レースだね。なんと言っても身内は全て僕の味方なわけだし。
流石にこの事を申し出た時は親父様も弟も「そこまでする必要はない」「自分がどうにかしてみせる」等と言われたりしたけど、その時は領内もかなり動揺していたし、このままではまた僕の事を上手く出汁にしようとする輩が出ないとも限らない。今回は身に危険は無かったが次もそうとは限らない、それに元々領主の座は弟に継がせると実家内では決まっていたこと、とかなんとか言って適当に煙に巻いておいた。別に家族のために汚名の一つくらいどうってことないし。
ただ、この一件に伴って当時それまで所属していたアカデミーの研究室からも追い出されることになってしまった。まあ中央からのキツい研究ノルマにも嫌気がさしていたことだし、自分が撒いたとはとはいえ変な噂に晒されつづけられるのも心が痛くなってきてたので丁度いい。親父様から暫くは食べるに困らない程度の身銭は持たされることになっていたし、長い休暇を貰ったと思って当分の間はのんびりと旅でもするか、と思いながらアカデミーの自室を片付けをしていた。
そんなとき、書架の奥から一冊の古い絵本が出てきたんだ。
それは幼少の頃、今は亡き夫人によく読んで貰っていたものだ。手に取ると擦り切れた表紙が懐かしい思い出を浮かび上がらせてくれる。弟と一緒になって読んで読んでとせがんでいたな、などと思い出し思わず頬が緩む。
そんな感慨に耽りながらページをめくるうちに、奇妙な既視感を感じ始めた。そこに描かれている物語と、自分の持つ知識がカチリと嵌まったような気がした。日々の研究などに追われていた時ならば思考の上っ面を滑り落ちていたと思うほどの些細な感触。だが幸か不幸かその時の僕には何のしがらみもなく、懐にはかなりの余裕があり、時間は売るほどにあった。気がついたときには自分の知識を裏付けるために図書館へ籠もり、数冊のノートをメモまみれにし、明くる日の夕方には世話になっていた研究所の所長への挨拶もそこそこに、駅馬車に乗って揺られているのだった。
そんな事を思い出しながらキッチンで洗い物をやっつけた後、僕はチャニーさんの家の地下にある自分の部屋に向かった。
チャニーさん謹製のランプに灯を付けると(なんとこのランプ、一つ付けると部屋中全てのランプに火が灯るんだ)、部屋は温かく柔らかな光に満たされる。部屋の中央には大きなテーブルがあり、そこが僕の仕事場と言える。テーブルの上には布に覆われた物体があり、よくよく目を凝らせばそれが人型だということがわかるだろう。
そう、これこそが、夫人が読み聞かせてくれていた物語にあった「天から落ちた舟」から発掘した世紀の大発見。
そっと布を取り払うと、そこには端正な作りの美しい肢体があらわれる。だが、その身体の殆どは所々が裂け、またはちぎれ飛んでいるのがわかる。
それでもその表情はあくまで穏やかなものであり、苦痛を感じさせるものはない。そしてどれほどボロボロにな
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