― 真っ暗な闇の中、私は窮屈さで目を覚ました。
「…え?」
恐らく目の前に黒い布が巻かれているのだろう。きゅっと縛った布の感覚が後頭部に残っている。それを剥がそうと万歳のようにあげられた腕を動かそうとしたが、ガチャガチャと金属音がなるだけで一定以上は動かない。下半身はさらに酷く、足を折り曲げた状態で縛り上げられている。その上で足は左右に開くように固定されており、まるで股間を見せつけているような格好にさせられていた。
「な…何だ…!?これは…!!」
「ようやく起きましたか」
― え……っ?
思わず紡いだ私の言葉に応えたのは聞き覚えのある声だった。そのまま声の主が私の方へ一歩二歩と近づいてくるのが分かる。それは普通であれば恐ろしいものであるだろう。見知らぬままに淫猥な格好で拘束され、視界まで奪われているのだから。さらに微かに感じる肌寒さが今の私が裸であることを感じさせる。けれど、その声は氷のように冷たいはずなのにそんな不安を一瞬で溶かし、安堵へと変えてくれるのだ。
「ほら…少し頭を上げなさい」
「あ…」
そのまま私の後頭部へと声の主が手を伸ばすのが分かった。それに私の身体は自然と顔を上げ、『彼』が動きやすいように反応してしまう。声の主に従うよりも先にもっと問いたださなければいけない事があるのは分かっているはずなのに、まるで身体中が『彼』に支配されているように自然と従ってしまう。
― そんな私の視界がゆっくりと光を取り戻し…。
最初に私の視界に入ってきたのは灰色の壁であった。恐らく地下室か何かなのだろう。壁紙も張られていない殺風景な部屋の中には殆ど物がなかった。生活臭がまるで感じられない部屋の中に唯一あるのは私が背中を預けるベッドだけである。
― そして…そのベッドの縁に彼…いや、ハワードが腰を掛けていた。
その姿は何時もと同じ制服である。けれど、その瞳は何時もとはまるで違うものであった。暖かい色を伴った普段の瞳とが違い、今のニンゲンはまるで物を見下ろしているような冷たい視線を私に向けている。けれど、それは以前、食堂で乱闘騒ぎを起こした連中に向けるような敵意あるものではなく、何処か自分の所有物を見るような優越感が含まれていた。
「ニンゲン…」
「へぇ…」
― 瞬間、私の太腿に衝撃が走った。
パシンと言う音と共に震えた身体に衝撃が走る。それはニンゲンが私の右の内股を平手で叩いたからだろう。ある程度、手加減してくれていたのかそれに対して痛みは殆どない。けれど、その代わり、私がぶたれた部分にはジンジンと骨に響くような熱が広がり始めていた。
「何時から私がそんな呼び方を許可しました?」
「い、何時からって…」
― 再び衝撃。
今度は左の内股を叩かれた私の身体がビクンと揺れる。それも先の一撃と同じく、痛みを伴わないものだ。だが、その熱は確実に神経へと伝わり、私の身体中を駆け巡る。まるで身体を熱くさせるようなそれに抗おうにも縛られた状態では何も出来ない。
「ご主人様と呼べとアレほど仕込んだつもりだったんですけどねぇ」
「ご主人様って一体、何の冗だ…っ!」
― 再度、衝撃。
「くぅぅ…っ」
「んー…あんまり強く責め過ぎたんで記憶でも飛んじゃったんですかね?」
右の内股に再び走った衝撃に堪える私の前でニンゲンは不思議そうに首を捻った。そこには何の後悔も苦悩も見えない。まるで家具が壊れた原因を探すように無味乾燥な疑問だけがそこにはあった。
「まぁ…良いでしょう。調教しなおすのも面白そうですし」
「ち、調教って…」
一人で勝手に答えを出すニンゲンに私は思わずそう返した。勿論、その言葉の意味を私は知っている。本屋でこっそり淫猥な小説を買って以来、私は何度もそれを読み返しているのだ。ここで言う調教というのが人の尊厳を打ち砕くものであり、女をメス奴隷に仕立て上げる事くらいは察する事が出来る。そして…とても気持ち良い事も…♪――
― な、何を考えてるんだ私は…っ!
ふと浮かんだその考えを私は唯一、自由になる首を左右に振って振り払った。しかし、汚泥から湧き出るようなその思考は何時まで経っても消えてはくれない。まるで数日置いた油汚れのようにべったりと私から離れないのだ。
「おや、まずはそこから説明しないといけませんか?貴女は私に捕まったんですよ。だから…貴女は私のモノなんです」
― 確かにそう言われてもおかしくない状態だったけれど…。
生活を完全にニンゲンに依存し、一人で外に出ることも危うい私は正直、ペットと言われても否定は出来ない。完全に彼抜きでは生活できなくなってしまった私は
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