龍さんとショタがちゅっちゅするお話

 
 ―誰だって最初の一歩を踏み出すのは勇気がいるものだと思います。
 
 その先に目的の物が待っているのか、或いは踏み出した先に本当に地面があるのか。踏み出した瞬間、そのまま奈落へと転落していくのではないか。進んだとしても目的の物を得られないのではないか。そんな不安は誰しも頭をよぎるものでしょう。
 
 ―それは魔物娘も人間も変わりません。
 
 魔物娘をまるで超常現象の塊のように口にする人もいます。この辺りでは魔物娘は神として崇められている事も少なくないので、それも仕方がないのでしょう。しかし…魔物娘だって肉を持ち、血を流す生き物です。人と同じように迷うし、苦悩と向き合う事だって少なくはありません。少なくとも私――龍と呼ばれる種族であり、つい数年前に水神として迎え入れられた桜燐という魔物娘にとってそれはとても身近なものでありました。
 
 ―だって…ここ最近はとても酷い日照りが続いていて……。
 
 数十年に一度あるかないかとも言われる長い日照りが続いているのです。もう二ヶ月近くの間、雨が降った所を見たことがありません。普段から水を貯めておく溜池や井戸も残り少なくなり、村人の大事な畑にはひび割れが走っていました。このままでは不作どころか収穫出来るかさえ危うい状態です。
 
 ―そして私には天候を操る力があるのです。
 
 ほんの一時…いえ、一日くらいであれば私は私を水神様と呼んでくれる方々に雨を呼び込む事が出来るでしょう。しかし、天候を操り続けるのは龍である私にとっても負担が大きいのです。一日も雨を呼び込めば、魔力不足で倒れてしまうでしょう。
 
 ―それでも行おうとする私を村人の方々は止めて…。
 
 準備をするからもう少しだけ待ってくれと頭を下げる彼らの要望を私は受け入れました。私だって魔力を枯渇させて動けなくなるのは本意ではありません。魔力を供給してくれる殿方――まぁ、その…魔物娘であるだけにそういう事で…い、一般的には旦那様と言える関係になるのですが……――さえ居れば、ほぼ永続的に天候を操作出来るだけに彼らの準備を待つ方が正しいと思ったのです。
 
 ―…けれど、それから既に一ヶ月が経っても音沙汰がまったくなくて……。
 
 盆地のように周囲を山で囲まれた小さな村。その一際大きな山の中腹に私が暮らす神社がありました。そこには未だに多くの人々が参拝してくれてます。しかし、それらの人々に準備のことを尋ねても曖昧に笑うだけではっきりとした答えを出してはくれません。まるで私に言えない何かがあるように彼らはそそくさと帰っていくのでした。
 
 ―…やっぱり新任の水神なんて信頼がないのかしら…。
 
 私がこの村に水神として受け入れられてからはや数年。しかし、それは神としてはまだまだ若輩な年月に過ぎません。神として豊作や水源の発掘など出来る限りの手助けはしてきましたが、村人たちとの信頼関係が築く事が出来ていなかったのでしょう。そうでなければ、あんなに言いにくそうに…しかも逃げるように神社から去って行かないはずです。
 
 ―…それとも…私が醜い所為なのですかね……。
 
 私も魔物娘の一種に属するだけあって、そこそこの容姿である自信はあります。しかし、同じ魔物娘の中で飛び抜けていると思えるほど美しいかと言われれば否としか言いようがありません。いえ、容姿がどれだけ優れていても私の下半身は人のものとは違い、緑の鱗に覆われた蛇身です。その腕もまた人とは不釣り合いなゴツゴツとした化物のものでした。見るからに硬く、抱き心地が悪そうなそれらはこの辺りに広く生息している稲荷さんたちと比べるべくもありません。
 
 ―…こんなんじゃ…私とつがいになってくれる殿方なんていませんよね…。
 
 「ふぅ……」
 
 ついつい後ろ向きになってしまう思考を中断して私は木造の本殿の中で魔力の結晶体たる玉を撫でました。通気性を重視して作られたこの建物はとてもしっかりしていて、夏の日照りの下でもとても過ごしやすい環境です。私を迎え入れる為に急遽、作られたのでこじんまりとしていますが、私一人が生活する分にはまったく問題はありません。
 
 ―そこの掃除ももう終わってしまいましたし……。
 
 小さな村の中にポツンとあるこの神社には宮司さんはいません。自然、この神社の掃除や衣服の洗濯、料理などは私一人でしなければいけないのです。勿論、一ヶ月に一回は村の人たちが掃除をしに来てくれますが、畑仕事で忙しい人々の手を必要以上に煩わせる訳にはいきません。常日頃から私をお参りし、畑で採れた野菜や川魚などを差し入れしてくださっているだけで十分過ぎるのです。
 
 ―そんな人達に…恩返しをしたいんですが…。
 
 水神様と崇められているにも関わらず、大した手助けが出来ない私を村
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