その1

 
 ―みずのせせらぎ…。
 
 わたしが うまれてから はじめてかんじたのは そのやすらかなねいろだった。
 おもわずかんかくをとじて からだから ちからがぬけてしまうおと。
 そのまわりには たくさんのきがたちならんでいて さわさわと はをこすれあわせていた。
 まるでわたしがうまれたことを しゅくふくしてくれているようなおとに わたしはおどった。
 まわりのなかまたちも そんなわたしをいわってくれて とてもいいかんじである。
 
 「…驚いたな。まさか誕生の瞬間を見れるとは…」
 
 そんないいかんじをくだいたのは どこかつめたいのこえ。
 からだがこわばってしまいそうなつめたいこえは いまは おどろきに みちていた。
 そのこえにうしろをふりむくと そこにはしろいふくをきたおとこのひとが たっている。
 きをけずりだしたつえをてにもつすがたは みたことのないものだった。
 
 「…単純に幸運だったと思うべきか。それとも…」
 「うー…!」
 
 わたしたちの てりとりーに いきなりしんにゅうしてきた おとこのひと。
 それをくちもとから きいたことのないおとがでた。
 まるでけもののうなりごえのようなおとに きづいたのか。
 おとこのひとはえんりょなくむけていた しせんをそっとそらした。
 
 「…あぁ、すまない。警戒させるつもりは無かったんだ」
 「うー…」
 
 あやまることばとともにおとこのひとは つえをなげすてた。
 よくわからないけれど このおとを ききたくはないらしい。
 りょうてをひろげ てきいのないことを あぴーるしている。
 まだちょっとしんじられないけれど つえをすてたのは きっと「あゆみより」ってやつなのだろう。
 
 ―わるいひとじゃないのかも・・・。
 
 いきなりてりとりーに はいってきたおとこのひとに まわりはなにもいわない。
 だれよりもてきいにびんかんななかまが なにもいわないということは このひとにてきいはないのだろう。
 なら、あまりこのおとを ならしてあげるべきでは ないのかもしれない。
 
 「…俺の名前はフィエロ。君は…?」
 「うーうーっ」
 
 なまえを きかれているのは わたしにもわかった。
 けれど、わたしは まだまだうまれたばかりで うまくはなせない。
 それに なまえもなかった。
 いみはわかるけれど わたしたちには あまりひつようないものなのだ。
 それを あぴーるしたつもりではあるけれど、かれにつたわっているかは わからない。
 
 「…そうか。まだ無いのか」
 「うー…」
 
 どこかざんねんそうなようすに わたしのかたも すとんとおちる。
 なぜかはわからないけど このひとがかおをくらくすると わたしもいたい。
 むねのあたりがじくじくと いたみをうったえるのだ。
 
 「じゃあ…暫定と言う事で俺が君に名前をやろう。君の名前は――」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 それからその男の人は私の住処に近寄ってくれるようになりました。けれど、それは数日に一度のみ。普段は何をしているのかは私には分かりません。近くにある人里に居を構えているというのは話の流れの中で分かりましたが、まだそれ以上に踏み込めるような関係には至っていないのです。
 
 ―それに…まだまだ言葉も未熟ですしね。
 
 まだ誕生から数ヶ月しか経っていない私は言語系が不確かで上手く言葉を話す事が出来ません。フィエロが沢山の言葉を教えてくれたり、感情の定義をしてくれたお陰で思考は大分、しっかりとしたものに変わりました。けれど、その意識の成長スピードに肉体が追いつけていないのです。私たちにとって比較的、必要無い部位である咽喉や舌と言うが成熟するのはどうしても後回しになっているのが現状でした。
 
 ―…ホント、こんな身体をしているというのにままならない事…。
 
 揺れる葉の間から差し込む日光を掴むように伸ばした手はフィエロのものとはまるで異なるものでした。透き通った青で染められた身体。それは腕だけでなく、身体全てがそうなのです。まるで水で出来ているかのようなその印象はそれほど実態と離れているわけではありません。私の身体の殆どがそれで形成されているのは事実なのですから。
 
 ―…こんな身体なのですから少しくらいは融通を利かせてくれてもいいものを。
 
 人間とはかけ離れた不定形なモノで作られている身体。その幾分かを私は自由に操る事が出来るようになっていました。普段は意識せずとも勝手に人型になっていますが、意識すれば指を増やす事だって出来るのです。それも自意識が成長したお陰でしょう。多少、身体の線を弄っても、揺らがない確固とした自己があって初めて可能となる技なのですから。
 
 ―けれど、そ
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