―…疲れた…ぁ…。
そんな風に思うのはもう何度目だろうか。町長のコネでこの避難所に新しく開かれた学校の教職についてから、もう数え切れないほど浮かべた気がする。最初こそ町長の言葉に突っ込んでいたが、教師なんて教科書通りに教えるだけの楽な仕事だと思っていたのだ。だが…想像と実際はまるで違い…毎日、ストレスが溜まる日々を送っている。
―子供って意外と賢いんだよなぁ…。
俺が受け持つのは特に専門知識の必要ない歴史の授業だ。…と言うかそれしかできない。算数や国語の教科書も眺めてみたが、何が何だか分からなかった。魔術は少しだけ分かるものの、人に教えられるほどではない。結局、俺が出来るのは特に専門的知識の要らない歴史だけで…俺の授業は殆どが興味なさそうに眠っているか、話しているかのどれかだ。勿論、俺も必死になって授業をしたり注意をしているが、やっぱりどうしても舐められてしまっているのだろう。まだ生まれて十年も経っていない様な子供ではあるが、馬鹿にして良い相手としちゃいけない相手の区別は本能的にしているのだ。
―…心が折れそうだ…。
別に何か志して教師を選んだわけじゃない。寧ろそれしか選択肢が無いからこその教師であった。だけど、それでも自分の話に興味をなさそうにされるのは正直辛い。コネで入った俺をあまりよくは思っていないのか、他の教師との折り合いも悪いし、精神的な負荷は今までと比べ物にならないくらいだ。
―これでも一応…努力してるんだけどなぁ…。
時間があるときは他の先生の授業を覗き見たりしている。重要そうな部分をメモして、自分の授業でフィードバックしたりもしているのだ。だが、それでも俺の授業を聞いてはくれない。他の先生はそれなりに真面目に聞いているのに、俺は生徒に完全に舐められきってマトモに授業を行えることの方が珍しいレベルだ。
「…はぁ……」
少しだけだが、教師は簡単な仕事であると思っていた。そんな当時の自分を殴り倒してやりたい。考えても見れば自分の中の考えを相手に誤解無く伝えるだけでもかなり難しいのだ。それを何十人を相手に同時に行うというのが難しくないはずが無い。しかも、俺の場合、それほど歴史に造詣が深いわけでもなく…きちんとした訓練を受けているわけでもなかった。そんな俺が教師と言う職業をマトモにこなせるはずもない。
―…辞めようかな…。
生徒も俺のような駄目教師に教えられるよりはしっかりとした教師に教えられる方が良いだろう。他の分野ならば兎も角、俺が就いているのは教職と言う分野だ。俺が教えた事が、或いは教えなかったことが一生残る分野である。そんな重要な場所に俺が居て良いのか。最近はそんな事をずっと考えてしまう。
―…悪い傾向だな。
自分の視野がどんどんと狭くなっていく感覚にそう思ったものの、気分が上向くことは無い。教職についてから既に数ヶ月が経過しているが、ずっとこんな感じだ。最近は定期的にではなく、常に胃が痛むくらいなので穴くらいは開いているかもしれない。しかし、病院に行く気にもなれず、俺は常に明日の授業の準備に追われる毎日であった。
「おっと…」
そんな事を考えていると家を通り過ぎてしまいそうになった。どうやら疲れすぎて注意力も散漫になっているらしい。そんな自分に気合を入れるように頬を叩いたが、眠気が過ぎ去っただけでまるで気合が入らなかった。多分、身体ではなく精神そのものが疲れきっているのだろう。そろそろ倒れてしまうかもしれない、そんな事を考えながら、俺はそっと我が家の扉を潜った。
「ただいまぁ…」
「おかえり。今日も御飯出来てるよ」
疲れた俺の声に対して暖かくベルが迎えてくれる。それにそっと顔を上げると、何時もの快活な笑顔が目に入った。どうやら今日も早番だったらしい。部屋の中には暖かい料理の香りが漂っている。迎えたベルは純白のエプロンを身に着けているし、ついさっき出来上がったばかりなのかもしれない。
「今日は自信作なんだよ。一杯食べておくれ」
「あぁ…いや…」
とは言われるものの、疲れた俺の身体はまるで食欲が無かった。ぐるぐると蠢く胃は胃酸だけを吐き出していて、食欲ではなく微かな痛みだけを脳へと伝えている。昼もこんな調子で結局、何も食べなかったからそろそろ何か口に入れなければ行けないとは分かっているのだ。しかし、俺の身体はどうにも食べ物を求めておらず、疲れた心は食べる気を起こさない。
「いや…今日もやめとくよ。授業の準備をしなきゃいけないしな」
「…そう」
そんな風に彼女の料理を断るのは何度目だろうか。ここ最近は毎日の様な気がする。そして…その度に悲しげに目を伏せる姿を見るのも。俺としても…別
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