鬱蒼と茂った緑の中を歩くだけでも俺の頬からは汗が流れ落ちる。さっき軽く気温を測ってみたが軽く40度は越えているだろう。暑い地域が真夏であってもそうそう越えない気温。そこからさらに暑くなっている様な気がするから、さらに気温が上がっているのかもしれない。
―…やべぇ…帰りたい…。
道を殆ど踏破しているとは言え、その暑さに心が折れそうになるのは仕方が無いだろう。ただでさえ俺は胸だけを覆うようなブレストプレートと片手剣を腰に下げているのだ。軽く10キロ以上はあるその装備を身につけながら『山登り』をするなんてその時点でかなりの労力を使う。
―ついでに言うなら…ここは火山だしな。
しかも、噴火寸前の。燃え滾るようなマグマをまるで男のアレのように吐き出そうとしているのだ。勿論、その山肌では気温が跳ね上がるし、火の元素が踊り狂っている。水も殆ど枯れ、木々は殆ど萎れていた。このまま続けば、完全に乾燥するのが先か、或いはマグマに飲み込まれてその命を失うことになるだろう。
「あー…マジ断ればよかった…」
そんな風に呟く俺の脳裏に浮かぶのはある依頼の事。それは火山の麓近くにある町の長からの依頼で、火口の様子を見てきて欲しいと言うものだった。少し妙な依頼だが、火山と言う危険を加味しても破格と言っても良いくらいの金額で、金欠であった俺は思わず受けてしまったのである。まぁ、話を聞いても特に命の危険があるとは思えなかったし、此処ではないとは言え暑い土地で生まれ育った俺ならば、まぁ大丈夫であろうと言う楽観もあった。
―だけど…これが調子ぶっこきすぎた結果だよ…。
確かに町長の言う通り命の危険は無い。この暑さに殆どの魔物娘が逃げ出し、登っている間にその気配も感じなかった。恐らく野生動物も同様だろう。変に道に迷わなければ、ローリスクハイリターンの素敵な依頼だ。…その暑ささえ加味しなければ。
―暑いぃ……。
もう何十度目になるかさえ分からない言葉を思い浮かべながら、俺はそっと頬を拭った。そこはもう脂汗と表現するのすら生易しいくらいの汗が浮かんでいる。ついさっき拭ったばっかりなのに、もうこれだけの汗が出るのか…そろそろ水を飲んでおいた方が良いかもしれない。
―ふぅ…でも…火口までもうすぐ…だな。
町長から受け取った地図が正しければ、後30分も歩けば着く頃だろう。なのに、まだまだ緑が鬱蒼と生い茂っているのが気になるが…方角も間違えていないし、正しい筈だ。ううん。そのはず。確証は無いけど、きっとそう。
―んじゃ…火口に乗り込む前に水の補給でもしておくか。
これからより一層、暑さは厳しくなっていくだろう。危ないと思ったときにはもう限界になっている可能性も高い。暑い地域では水と言うのは命を護るものと同義でもあるのだ。早い内の給水を心がけないと、熱と言う者は何より冷酷に命を奪っていく。
―ん?
そんな風に考えていると、こっちへと近づいてくる何かの気配を感じる。野生動物か?とも考えたが、迷わず一直線に進んでくるその様子は基本的に人から逃げようとする野生動物とは思えない。よっぽど鈍感か、或いは人を主食にしているのであれば別だが、こうまで無防備に進む野生動物と言うのは少ないだろう。なら…考えられるのは人間…或いは魔物娘くらいなものだ。
―でも…有り得るか?
何せここは噴火寸前の火山なのだ。下の町ではもう大半が別の土地に避難している。その中には元々、この山に住んでいた魔物娘もかなり混じっているという話を聞いた。と言う事は彼女達もこの火山が噴火すると言う事を知っていると言う事だろう。そして知っているのであれば、好き好んで残ろうとする奴が居るなんて思えない。居たとしても自殺志願者くらいのものだろう。しかし、はっきりとしたその気配は決して生に絶望したような相手とは思えない。
―さて…何が出るかな。
心の中でそう呟きながら、俺は剣の柄に手をかけた。所謂、量産品の一山幾らの長剣。けれど、俺のような中堅程度の冒険者にはそれで十分すぎ…長年、俺の命を護り続けた相棒でもある。その使い慣れた感覚を感じながら、俺はがさがさと揺れる茂みの奥を油断無く見つめた。
「よ!」
―茂みの奥からそんな風に現れたのは女だった。
薄黒い赤に染まった髪はまるで水のように艶があり、美しい。暑くて鬱陶しいからだろうか。その髪を束ねて、ポニーテールのように纏めている。それを束ねるリボンも艶のある黒をしていて、薄黒いその髪に良く似合う。
その下にある顔は間違いなく美人と言っても良いくらいだ。勝気そうなイメージにそって上手に配置された顔のパーツ。釣りあがったその目も生意気さよりも活力を伝え
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5 6..
22]
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録